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女は二度決断するのマーチのレビュー・感想・評価

女は二度決断する(2017年製作の映画)
3.6
【レビュー】

《今そこにある、あまりにも悲惨な現実》

監督は神経質なのだろうかと思われるほど、丁寧な演出が施された非常に実直な印象を受ける作品。(態々3部構成にしているのも、スマートな印象を後押し)

予告を観て単純なリベンジムービーなのかと思っていたら、全然そんなことなくて、ネオナチが絡んでくる直球の社会派映画だった。

まず何よりもダイアン・クルーガーの演技が今年の日本公開作品の中では『スリー・ビルボード』のフランシス・マクドーマンドと双璧をなすほど素晴らしく、彼女の名演だけで十分観る価値のある作品でした。冒頭の悲しみと怒りに震え、感情を吐き出すかのような慟哭の演技は圧巻。その後はずっと彼女の繊細かつリアリティある演技に驚かされ続けること間違いなし。

裁判シーンでのネオナチ夫婦の行動や、被害者の心情を鑑みることもなく仕事だからとはいえ土足で人の心を踏みにじるかのようなネオナチ夫婦側弁護士の追い込み方には終始イライラさせられました。

そして、それを踏まえた上でのあの衝撃的な結末…あの決断をせざるを得なかったカティヤの心情を思うだけで途方もなく泣けてくる。直前にカティヤが見ていた家族の映像が、その悲惨さをより際立たせていて何とも言えない遣る瀬無い気持ちだけが残りました。

国による違いはあれど、誰もが同じ人間。
もしあなたの家族が同じように犠牲になったら?
家族を殺した明らかな犯人たちが、法廷にいる被害者の目の前で申し訳なさそうな素振りすら見せずに笑顔で微笑んだり、キスをしたりしていたら?
殺してやりたいほどの憎悪の行き場は?

まだまだ容赦ない理不尽の罷り通る社会で、我々は何に希望を見出して生きていけばいいのか。

エンドロール前に提示される事実に、ただただ言葉を失う…


【p.s.】
実際の事件をもとに着想した作品ということで、非常にリアリティがありますが、こんな事実はあまりにも残酷すぎる。


【映画情報】
上映時間:106分
2017年/ドイツ🇩🇪 フランス🇫🇷
監督・脚本・製作:ファティ・アキン
出演:ダイアン・クルーガー
デニス・モシットー
ヨハネス・クリシュ
ウルリッヒ・トゥクル
ヌーマン・アチャル
ラファエル・サンタナ 他
概要:突然愛する夫と息子を失った主人公
の苦難の日々を映し出す社会派作品。
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