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女王陛下のお気に入りのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

女王陛下のお気に入り(2018年製作の映画)
4.5
No.1213[ウサギになった没落貴族の物語、或いは女性版「バリー・リンドン」] 90点

想像以上に「バリー・リンドン」で困惑している。"女王陛下のお気に入り"と言われてしまえば"女王陛下"が今は亡き☆マークのあれを飛ばしまくる光景を想像してしまうが、現実を観てみてると向上心むき出しの女がウサギになるという滑稽な話だった。この絵好きなの、このウサギ可愛いの、の延長線上にあるこの娘可愛いの、という感情に露悪的なオーバーラップで答える感じが安直だけど大好き。魚眼レンズは空間の広がりを完全に潰してるけど、それが逆に息の詰まる空間を表していて別に気にならない。エマ・ストーンもアメリカ人の話すクイーン・イングリッシュで、多分関東の人間が関西弁を話す感じに聞こえてるんだろうけど、それも含めた高尚なギャグと捉えると丸く収まるのでは。真面目に考えちゃいけないんだよ、相手はランティモスだぜ?と言いつつ、全然ランティモス感は無いのだが、むしろ反ランティモス派としてはこれくらいランティモス味のしない映画のほうが好み。

アン女王の話を知ったのは結構前になるけど、ブランデー呑み過ぎの巨漢で"ブランデーおばあちゃん"と呼ばれていたこと、太りすぎていて棺が正方形だったこと、流産と死産を繰り返しついには三回ほど想像妊娠をした挙げ句子供には恵まれずに亡くなったこと、そしてスチュアート朝が断絶し、カトリック系の王族を議会から分離するためにややこしい法律を制定して王族血縁者ゲオルク・ルートヴィヒ→ジョージ1世をドイツから連れてきたこと。こうしてハノーファー朝が誕生して現在に至るわけだ。話がそれたが、ドイツ語しか話せないジョージ1世を補佐するために内閣が組閣されて首相が誕生したのでPrime Ministerを大蔵卿と訳すのは全く問題ない。というかそっちが正解。

映画の話に戻ると、蝋燭の光だけで貴族社会の闇を映し出すのは完全に「バリー・リンドン」だし、物語的にも卑しい身分の主人公が成り上がるという第一部レイモンド・バリーをアビゲイルが担当し、高貴な身分にあった主人公が身内の反乱によって身を窶すという第二部バリー・リンドンをサラが担当するという被り具合。てな訳で勝手に興奮していたんだが、よくよく考えてみると技術は進んでいるのに同作よりも画面が暗い感じがするのはランティモスの指示なんだろうか。

ラストのあの感じもアン女王の"なにウサギ踏んでんだよ、テメェがウサギのくせに!"というブチギレ具合があの安直なオーバーラップになっていくのがギャグっぽくて笑けてくる。やっぱこれくらいがちょうどいいよ、ランティモス!

劇中ロブスターを戦わせるシーンで爆笑してたの私だけだったけど、あれは笑うシーンでしょ?
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