emily

隣人のゆくえ あの夏の歌声のemilyのレビュー・感想・評価

4.2
 太平洋戦争時の空襲で焼け落ちてしまったが、今は再建されている梅光学院を舞台に、生徒たちがワークショップを隔て制作を手掛けたミュージカル映画。

 ある日学校に忘れ物を取りに行ったカンナは、旧校舎に足を踏み入れると響き渡るミュージカル部の歌声のとりこになり、夏休みの間足しげく通うようになるが・・

 日本人に生まれてよかった。原爆を底のテーマに捉えながらどこまでも透明感があり瑞々しく、生徒たち40人だから生み出せたか細さと繊細さが、ミュージカルを演劇の空気を生き物としてる。歌がうまい訳でも演技が上手い訳でもない。しかしここには作り手のぬくもりがあり、作り上げた過程があり、すべてのシーンが生き生きしており、心に響く。雑さも粗さもすべてが好印象に働き、陽だまりのように温かく、時に残酷で、最後までじわりじわりと心にしみいるように溶け込んでくる作品だ。

 劇中歌もどの曲もシンプルながら確実なメッセージ性があり、見終わった後もずっと心に刻まれる。とくに「はじまりのふたこと」という歌には涙が止まらなかった。日本人で生まれた事に誇りを、日本語の素晴らしさを改めて考えさせられる。移り変わる時の中で、忘れがちな何かをふと風と共に届けてくれる。原爆の白黒写真のインパクトもある。

 今もなお学校は生き続け、そこにはたくさんの命が交差している。彼女たちはまた今作にかかわる事で、今につながる過去を、そうして生きる事の力強さを、心でそうして体で感じただろう。監督と生徒たちの深い信頼関係の上に成り立ってる、日本人の生徒たちだから作りえる作品と思える。まさに小さく壊れそうなほど繊細な作品、だけど生きてる。こんなに温かい作品に出会ったのは久しぶりです。
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