ふき

ビッグのふきのレビュー・感想・評価

ビッグ(1988年製作の映画)
4.5
一二歳の少年が三〇歳の大人になってしまう「なりすまし」コメディ作品にして、トム・ハンクス氏の出世作。

トム・ハンクス氏がその後に何度か繰り返す「持ち前の実直さで人々を魅了していくキャラクター」の魅力が全面展開されており、「大人の振りをするジョッシュ」が巻き起こすコメディが素晴らしく面白い。映画の八割は、笑えるまたは爆笑だ。
だが本作の魅力は、「大人の振りをするジョッシュ」のコメディ映画が、突然「大人に順応したジョッシュ」の恋愛映画に切り替わるところだ。大人の女性であるスーザンとの関係を通して、一八年間という時間が絶対に埋められないことが浮き彫りになると、お話に閉塞感が増していく。ジョッシュの本当の未来を開くためには、現在=仮の未来を閉じなければならないからだ。
かように、本作の真の魅力を理解するにはある程度大人になっている必要があるが、子供が表面的に見ても楽しめるようにもできている。文字通りの意味で「万人向け」だし、『フォレスト・ガンプ』や『ターミナル』が好きな人なら一〇〇パーセント楽しめるので、見ていない人は是非見てほしい。

……という前提で、なのだが。
最後まで見てみると、ところどころ「勿体ないな」と思う箇所が出てくる。
「子供心を失っていない大人」として登場する玩具会社のマクミラン社長、「子供心を失ってしまった大人」として登場する同僚のポールは、ジョッシュが大人社会の中での立場を確立していく過程でフィードアウトしてしまう。特に社長は、エンディング後のジョッシュが辿るかもしれない理想的な大人像の提示なのだから、もう少しお話に絡められたと思う。
子供が誘拐された勘違いしている母親も、話の軸足が大人社会に移って以降はほぼ出てこなくなる。入社の件と誘拐犯の件が重なって大問題に発展するのかな、と思っていたので拍子抜けしてしまった。
「成長」や「時間の経過」というテーマも、見終わってじっくり考えてみると実は通底していたと分かるのだが、見ている間は終盤で突然出てきたように感じられるので、たとえば『恋はデジャ・ブ』のように最初から哲学的な射程を含んだバランスにはなっていない。
そんな感じで、最終的には「持ち前の実直さで人々を魅了していくトム・ハンクス」的な笑いと感動の範疇に収まった恋愛映画で終わってしまった感は否めない。もちろん前述のようにメチャクチャ面白い映画だし、焦点を絞ったことで「万人が楽しめるお話」にはなっているので、見終わった時の満足感は本物なのだが……勿体ないと思ってしまった。

蛇足かつ予想なのだが、本作は元々「ジョッシュが一八年間植物人間状態で大人になる」として企画されていたのでは? 冒頭の「ゲームのキャラクターが氷漬けになって目覚めるのは数百年後」とか、「一八年後には主人公より大人になっている赤ちゃん」とか、時間を飛ばすことを匂わす描写がたまに入っているのが気になる。しかもそれらは結局、まともに回収されないし。
冒頭のシーンを一八年前に設定して描いていないのは美術を見れば明らかだし、調べた限り制作中に脚本が変更されたこともなさそうなのだが、ちょっと気になった。
ふき

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