みなりんすきー

黒い雪のみなりんすきーのレビュー・感想・評価

黒い雪(2017年製作の映画)
3.7
『無理だよ あそこは兄さんの家だ カナダ人に売るから出てけなんて──30年も住んでて納得するわけない』

『そうだな お前の妹だ 面倒を見ろ』

『ここを売りたいのか ホアンは?置いていくのか 連れていくか? どこに? 』

『何もかも 忘れましょう』


■ あらすじ ■
スペインに暮らすマルコスは、父の訃報を受け身重の妻ラウラと共に故郷アルゼンチンへ帰ってきた。父の遺言の実行と土地売却話を進めるため、長年疎遠だった兄サルバドルの元へ向かうが…


■ 感想 ■
『黒い雪』
(『Nieve Negra』)

アルゼンチン産サスペンス映画。まだ41Markだと・・・これはもっと有名になっていい作品。
BGMはほぼ皆無、必要最低限の会話、ピクリとも笑えぬピリついた空気感で淡々と送られる本作だが、私には超ヒットしたものすごく好きなタイプの映画だった。

とにかく会話も少なく、言葉での説明的な部分は一切ないので、その場のやり取りやたまに挿入される回想シーンのみが、一体この家族──さしては兄弟間に何があったのかのヒントになるんだけれど、そのヒントの散りばめ方というか見せ方というか、とにかくその表現・描写が秀逸で。出し過ぎず、出さな過ぎずの絶妙な具合に見せることで視聴者の予想、思考をある程度のところまでさせておきつつ、けれどオチは決して読ませぬぞというくらいのところで留めておく。このバランスがとにかく絶妙。

正直、死ぬほどサスペンスやミステリーを観てきた自分としては割と予想に自信があったし、途中でそれが合っていたと分かった時は「あーやっぱりか。何だよ読めちまったよ〜( ´・֊・` )フッ」という気持ちになってたんだけど、恐らく制作側はそこまで計算済みだったんじゃないかなと。一旦その辺までは読ませておいて得意げになっているところに、奥からヌッと手を伸ばしてきて首根っこ掴まれた感じ。その辺の加減がとにかく上手い、上手すぎる。近年観たサスペンス系の中で一番上手かったかも。ラストはまんまとやられましたわ。

真相を知ったあとに、それまでのやり取りを色々思い出すと至る所に伏線が散りばめられていたことに気が付き、その巧妙さと静かに語られていた真実にゾッとさせられる。はじめ観た時には気にならなかったような会話、目線、態度、言動全てに意味があった。

真っ白な雪と木々に閉ざされた広大な土地。美しいはずの雪も、時間が経ち少しずつ真相に近づいていくうちにその姿を変え、時には鮮血のように赤く、時には底無しの闇のように黒くも見えていく。最後、一瞬のラストカットにゾッとさせられる。あの一瞬に、全てが詰まっていた。