龍じん

累 かさねの龍じんのレビュー・感想・評価

累 かさね(2018年製作の映画)
3.6
人間の美醜に対する感情は根深いものがあることを再認識させられる作品。
醜いが稀有な演技力を持つ女、容姿は美しいが才能に欠ける女優、ふたつの顔を入れ替わる。原作付きだがそもそものプロットが優秀なので嫌な話(褒め言葉)にならない訳がない。
「劣等感」「嫉妬」「渇望」「侮蔑」「怨嗟」「憤怒」様々なネガティブ感情が交錯する。原作の累はマンガチックな描写であった為読後感は少々ライトだったが、実写化されるとそれらはさらに顕著に浮き彫りに。
美しい容姿を手に入れた累が、自信と共に内面もモンスターと化していく過程が空恐ろしい。対して容姿だけでなく人生すらじわじわと侵食されていくニナの焦燥はいかばかりか。人は自分の居場所を無くした時最大限の恐怖を覚えるのだ。しかし対照的な筈の二人の歩みは同じ「絶望」に向かっている様にも感じる。
ラスト舞台上の美しく狂気のサロメ。
どぎつい色彩と迫真の演技、舞台劇らしい台詞回しが印象的。
ヨカナーン(ニナ)への口づけは暗鬱な我が人生への別れの儀式か、あるべき人としての良心への決別か。
それは彼女にしか分からない。

演技の中で演技をするというハードルの高い役を土屋太鳳が演じ切っている。芳根京子も醜く(まぁ傷があるだけで十分綺麗なのだが)卑屈な累という未開の役どころにも関わらず見事。二人の顔が入れ替わるシーンがとにかく多いので中身がどちらか観ていて分からなくなりそうだが、両名の高い表現力のおかげで混乱することは無い。
特に土屋太鳳はダンスの才能も含めて彼女にしかこの役はできないと思える程。陽の演技しか見た事が無かった彼女に対して、女優としての評価が180度変わりました。これからは今後の彼女の活躍に注目していきたい。
土屋太鳳…おそろしい子!
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