龍じん

ちいさな英雄 カニとタマゴと透明人間の龍じんのレビュー・感想・評価

2.8
品川ステラボール登壇者付き完成披露プレミア試写会にて鑑賞。
この上映が全国でも一番最初とのことなのだが、封切が8/24なのに8/19が初試写会って遅くないスか笑。完成したのも6日前らしいが…

一本一本の出来は悪い訳じゃないのだが、どうしても小粒感が漂ってしまうのがショートムービーの悲しき性。『ロボットカーニバル』『MEMORIES』『迷宮物語』等々80〜90年代流行ったオムニバス達は時代が黎明期とあって実験的な意味合いの強い尖った作品が多く、まだ見ぬ映像の世界を眼前に開いてくれた。目新しい物語・プロット・技術もはや出尽くした感のある現代においては、無い物ねだりですかね?

『カニーニとカニーノ』
擬人化されたカニ兄弟(フィルマの説明読むついさっきまで妹だと思ってた💧)のフラット過ぎる冒険譚。自然描写は美しく川面の流れに手で触れられそう。もう少しクライマックスらしき場面があっても良かったのではと。台詞に関してネタバレになるので詳細は明かせない設定があるのですが、折角のギミックが単純すぎる話のため活きてない。サイレントでも成り立っちゃいそうであまり意味が無いような。ヤマメ(かな?)の描写はモンスターっぽくて◎。

『サムライエッグ』
個人的には三本の中では一番良かった。現代社会ならではの切り口・絵本の様な描線ながらスピード感溢れる表現は引き込まれるものがある。どうしようもないコトを抱える主人公家族。明るく前向きに乗り越えようと過ごす日々。それでも衝突する時もモヤモヤする時も大事故になる時もやはりある。それらを吹き飛ばすのは子供の成長。劇中あるモノがその「成長」の象徴として描かれるのだが、誰もが経験し共感出来るそのあるモノのチョイスはなかなかに絶妙。子を持つ親御さん目線なら余計に感じいる部分が多そうですね。逆に小さい子には何が起きてるか少々分かり辛い話かも。

『透明人間』
透明人間というメジャーな題材に今までにない要素を加えた本作。主人公の立ち位置がハッキリと明確化されてない世界観において、主人公の「透明性」は物理的にも外界との関係性においても「存在」自体を不可視化させるという解釈か。ドラえもんの「石ころぼうし」を読んだ時感じたのと同じ様な、他者に認識されないという絶望的な孤独には恐怖さえ覚える。強風に晒された主人公の心情は焦りだけではなく、自分がいなくなったことすら誰も気付かないのではないかという虚無感でもあったのではないだろうか?暗鬱たる展開の中、彼を奮い立たせる事件の勃発と英雄的奮闘。彼を社会に引き戻したモノもまたひとつの小さな命。読後感は悪くない。

子供向けの「カニ」・親御さん向けの「タマゴ」・玄人向けの「透明人間」多様な方向で楽しめる作りになっているが、根底に流れるのはどれも「いのち」の躍動。それを守るために戦う時誰もが「英雄(ヒーロー)」になれる。特撮ヒーローの様にカッコ良く勇ましくもないが、三人の監督がそれぞれのヒーロー観をそれぞれの視点で描いているのが好ましい。ただやはり個人的には物足りなさが残ったのもまた事実かな。テレビやビデオではない映画としての付加価値が欲しかったところ。細田や新海にお株を奪われ、ジブリの後継が今ひとつ育っていないと言われる今日、スタジオポノック及び三人の監督の今後に期待です。

初試写というのもあってか、登壇者が思いの外豪華でビックリ。三人の監督に加え、木村文乃・鈴木梨央・尾野真千子・篠原湊大・坂口健太郎・田中泯と主要メンバー揃い踏み↗(オダギリジョーが見れなかったのは残念。坂口健太郎と田中泯の登場時の会場の温度差が…w)
そして主題歌を歌う木村カエラの生バンド・紙テープバズーカ(!)も投入しての本格的なライブは圧巻。
かなりお得感のある試写会でした(>ω<)


追記
本来この『小さな英雄』は故高畑勲監督の作品を含めた四本で構成される筈だったそうです。御大がどの様な話を描くつもりだったのかは今となっては知りようも無いですが、観てみたかったですねぇ。
それでもジブリの系譜を継ぐ三人の監督の健闘を草葉の陰から頼もしく思っていることと思います。氏のご冥福をお祈りします。
龍じん

龍じん