希望を紡いでいく
極爆試写会にて
今年度ベスト級の映画。ホラー映画は「エクソシスト」においての娘がヒッピーに目覚めていく当時の恐怖を描いたように、人々が生きる上で恐怖や不安に感じるものをホラー的要素に置き換えたり、誰しもが持つ五感を利用したホラーはとてつもなく怖い。最近では、「視覚」と「聴覚」を利用したホラーが一斉を風靡した。若き鬼才デビッド・F・サンドバーグが視覚においての明暗を利用した傑作「Lights Out」を作り上げた。そして、鬼才フェデ・アルバレズが聴覚を利用した傑作「Don’t Breathe」を作り上げた。
そして、あの「Don’t Breathe」を遥かに超えるホラーが「Quiet Place」だ。スティーヴンラング扮する変態オヤジを優に超える何かが、どこにいようが容赦なく襲って来る。
人間はいつでも音を立てることができる。つまり、劇場が明るくならない限り、何かに襲われる恐怖は続く。歩く、物を手に取る、息をする。些細な動作が命取りになる。ここまで90分間神経を使った映画はない。ただ設定が怖いだけではなく、息をつく暇がないほど恐ろしい展開が続いていく。映画も「何か」も、容赦は一切しない。音使いも素晴らしく、音の緩急はココイチ。オスカーで音響編集賞狙える。
この映画が世界中で絶賛されたのは、ただ怖いだけじゃない。「ラストオブアス」などに通ずる、意志や愛、命、生き抜いていくことの素晴らしさなどの全てを包み込んだ「希望」を託していく話になっている。
この映画は或る家族の話であり、あらすじにもある通り、出産という展開がやってくる。たとえポストアポカリプス的な希望が失われた世界であっても、生きて意志を紡いでいこうとする人間の尊厳は忘れてはいけないことを思い知らされる。いざ蓋を開けてみれば、普遍的なドラマが広がっている。ローガンやザ・ロード的であり、これは映画版ラスト・オブ・アスだ。
ジョン・クラシンスキーが監督脚本主演を務める。13時間でゴリゴリの兵士役をやっていた彼が、まさかこんなに恐怖的で繊細なドラマという複雑な映画を天才的なうまさで作り上げるとは思わなんだ。本当の妻のエミリーブラントの美しさとかっこよさはいつもながら。プラチナムデューンだったからマイケルベイが関わっているのか?と思ったら案の定彼がいた。
これがホラーの真骨頂である。
追記
他の方のレビューを見て、成る程と思ったことがあった。エクソシストの事例を今作に当てはめると、まさに大衆迎合主義的な世相になりつつある世界で、マイノリティを潰していくことが多々ある。声を出そうにも潰されてしまう現在のアメリカをこの映画は反映しているのではないか?と感じた。シェイプオブウォーターにおいて、主人公が声を出せないことのメタファーのものと類似している。
2018.09.29 2回目