しの

寝ても覚めてものしののレビュー・感想・評価

寝ても覚めても(2018年製作の映画)
3.9
何だかふわふわした女が二人の男の間で揺れ続ける、という単純な話が、巧みな演出と編集によって「夢か現実か」「自己か他者か」「運命か選択か」という壮大な普遍性を帯びていく。自己から不意に立ち現れる他者性が、日常の中で不意に立ち現れる非日常として描かれ、2時間釘付けに。

本作のキーワードは最初に提示されているーー”self and others”だ。この気持ちは誰にも止められない! と思っていても、抑えきれずにもう一人の自分が出てきてしまう。すなわち自己の中に潜む他者性。それが発現するトリガーとして本作は「愛」を描いている。だから恋愛映画なのに、全編が不穏さやスリルに満ちていて面白い。

本作が示すのは一貫して「日常の中で不意に『非日常=他者性』が解放される瞬間がある」ということだ。そういう意味で、震災も恋愛も等価なものとして扱われている。

冒頭の爆竹をはじめとする「突然響く音」の演出や、同じ顔の男の登場といったような突飛な展開が多くあるが、これらはどれも日常の中に非日常が出現するトリガーであり、更に言えば「他者性」に触れるトリガーになっていくものだ。この緩急は、エンタメ的にも強力な効果を発揮している。

ここでキモになるのが二人の男だ。彼らは明らかに一方が日常(現実)で一方が非日常(夢)であるように描かれている。しかし、これが映像やセリフの反復によって不意にごちゃごちゃになるのだ。ここに本作の映画話法の高級さを感じる。特に高速を降りた後の車内のシーンは象徴的。映像もセリフも反復されており、今夢から覚めたのか、はたまたこれから夢を見るのか……という曖昧さに観客までもが誘われる。だから、私は本作の題に続く言葉は「夢を見ている」だと思っている。

では、そんなとき我々はどうすべきか。「間違いじゃないと思う選択」をしていくしかない。だから彼女は堤防で塞がれた幻想の海でなく、轟音を立てる本物の海を見て、自分に潜む他者性に向き合う。正直、ここのシーン以降あまりに彼女が「主役」すぎるように思われ、急に亮平が彼女の物語に従属するような存在に思えてしまったので、ラストシークエンスがあまり響かなかった。しかし、シンプルな物語にここまでテーマ的深みとエンタメ的面白さを感じられるのは、やはり映画話法の巧みさによるものだろう。非日常としての海は消え、日常の中に流れる川を見つめる。「運命だね」という言葉の呪いは解け、「選択」の物語となるのだ。
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