はまたに

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のはまたにのレビュー・感想・評価

4.8
一体、ここから何を思えばいいんだろう。何を意図したそれだったんだろう。

そのあまりに唐突かつ胸を打つラストは、ほんとだ誰にも予期しえない。ベクトルは全く異なるものの、個人的にはブリー・ラーソン主演の『ショート・ターム』や、アキ・カウリスマキの中編『真夜中の虹』を思わせる鮮烈さだった。

これは確かに胸を打つラストだ。ただそれが、どういう感情に作用しているのか、鑑賞から数時間たった今もわからない。いや、正確には、わかろうとも思っていない。自分の心の内を詮索したくないのだ。よくわからないまま撃ち抜かれている。それでいいのだ。

ディズニーワールドの至近距離にあるカラフルな貧困の中で、子供たちは冒険といたずらの日々。際どいその日暮らしと背中合わせの天真爛漫。その中で感心したのは、母娘2人の間には一切の亀裂がないこと。大体この手の話の場合、不安定な親の感情のはけ口として子供につらく当たる場面がありそうなもんだけど、ひとつもない。ずっと最高に仲良しだ。それがすごい。

もちろん、袋小路に追い詰められ、浮上のきっかけすら与えられないシングルマザーの母親(いわゆるマイルドヤンキー)は叫ぶし荒れるが、それは子供の世界に干渉しない中でのことだ。子供は来る日も来る日も小さな冒険者であり続ける。貧困を描きつつも、本作が社会への告発の色合いを持たないのは、そうした描き方によるところが大きい。

わたしは、『わたしは、ダニエル・ブレイク』にいたく感銘を受けたクチだが、同じような問題を扱いながら半ば軽やかですらある本作『フロリダ・プロジェクト』にもまた、同等に魅了されるのである。

さて、メインの登場人物は母娘以外にもうひとりいる。モーテルの管理人、ボビーだ。彼の存在も実にいい。ウィレム・デフォー(『スリー・ビルボード』のフランシス・マクドーマンドになんか顔が似てる)演じる老いかけた管理人に与えられた役割は、出来事の当事者でもなければストーリーテリングのための傍観者でもない。それでもとても重要なのは、彼というコミュニティのハブをなすような人物、バランサーのような人物によってかろうじて支えられている人々が多くいることを実感させられるからである。安モーテルで“避難生活”をしている人たちを支えているのは明らかに彼だ。子供と母と、そして社会ではなく彼の視点があるのが本作の素晴らしいところ。2回目を観ることがあれば、彼の姿を見ただけでウルッとするんだと思う。

おっと、ウィレム・デフォーでこんなに字数をかけてしまった。となると、彼以上に本作を語る上で欠かせない子役ちゃん、ブルックリン・キンバリー・プリンスに触れないわけにもいきますまい!(使命感)

アカデミー助演男優賞にノミネートされたウィレムに加え、Instagramで“発掘”されたホットなママのブリア・ヴィネイトもはまり役だったけど、とにかくこの子の無邪気な表情に作品全体が支えられたのは言うまでもない。

彼女、(監督の撮り方によるところもあると思うけど)ほんとに演技してんのかなってくらい演技くささがない。子供に向かって言い方は変だが、「まんま子供」なのである。

わが邦が誇る名人・芦田愛菜や『アイ, トーニャ』での熱演も記憶に新しい『ギフテッド』のマッケナ・グレイスだと、幼さの中にも明らかな才気や演技力が見て取れるのだけど、このブルックリンちゃん(キンバリーちゃん? プリンスちゃん? どれ?)にはそれが感じられない。いい意味でわからないのだ。

例えるならば、見た目はミートくんだが中身はネプチューンマンばりの完璧超人だったりするのが芦田&グレイス組で、まんまミートくんであるのがキンバリーちゃん(変えてみました)なのである。当然、ミートくんを演じろと言われればミートくんに扮した完璧超人よりミートくん自身であるほうが自然なのだが、プリンスちゃん(変えてみました)にはそうしたナチュラルさがある。2,800万パワーで演じられる50万パワーより、50万パワーで50万パワーの人間を表現することのほうが、おそらくきっと大変なのだ。

だから、彼女に対して抱く感情は「末恐ろしい女の子だ」ではなく、「この子マジもんなのかなあ?」である。それがどれだけのリアリティを作品に与えるか、想像してみてほしい。そして、想像してみてほしい。この「例えなきゃよかった感」がどれだけ彼女への賞賛をおちゃらけた感じに貶めているのかを。

やらなきゃよかった。しかし、そうでもしなければいけないと思ったのだ、あの日の私は。こうなることがわかっていて、それでも悪手を選んでしまう。それが貧困と、「うまいこと言うたった感」の恐ろしさである。

みなさんにもそれを感じとってほしい。そうした思いから筆を執りました(嘘)。

おちゃらけてサーセン。読まなきゃよかったと思ってるでしょ? 私も書かなきゃよかったと思ってます(わざわざWikipediaで超人パワーの数を調べてまで!)。

でも、虹のふもとには金がある。そう思ったら取りに行きたくなるものなんだよ。妖精さんがそれを渡してくれないと知っていてもね。

うおおおおー! またうまいこと言うたった〜!!! ← 逮捕
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