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哀れなるものたちのはまたにのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.6
新しい人生を始めるまでの奇妙なチュートリアル。

いやー、こりゃどえらいもん創り上げたなヨルゴス・ランティモス。怪作にして傑作。傑作にして怪作。でも問題作ではなく、ちゃんとエンタメしてて堅っ苦しくない。ビジュアルに魅せられ、ストーリーに唸らされる至極の体験の中、私の脳は感じているのか、考えているのかわからなくなる。あいまいな状態に置かれているって感覚もおもしろかった。

エマ・ストーン、もはや『アデル、ブルーは熱い色』に匹敵するぶつかり稽古っぷりに驚かされるも、ベラとしての肉体に宿る知性と理性があけすけな淫らさから距離を置く。赤ん坊(もしくは軟体動物)から世間知らずのお猿さん、揺らぐ思春期、野心の萌芽を経て自立したひとりの女性として道を定める。その全てがエマ・ストーンの中に息づいている。えらいこっちゃ。

男は情けなく描かれているものの、それは悪意のカリカチュアというよりは現代の目線で見れば当時の男たち(というか男という権威)はみな滑稽だったんだよということに他ならない。日本でだって仕事だけして家事も育児もせず威張り散らしていた男が定年退職後に熟年離婚を食らうや自分の生活すらままならずゴミ部屋に沈没するというような例は珍しくないと思うんだけど、下の世代からするとシンプルに「アホなん?」としか映らない。それと一緒だと思う。アホなん? の可視化。

でも、その人たちも個々人の自由意志でそういう大人コドモになったわけじゃなく時代や環境に大いに影響されたある意味被害者なわけだから、私たちがそうならないためにもみんなで考えてみんなで世論を形作っていくのが大事だよな。と思うんですがいかがでしょ?

ラスト、あれは自立を選び取った女性の決断なのか、どこまで行っても愛情深い育ての親という呪縛からは逃れられないというより仄暗い暗示なのかわからないけど、少なくともエログロエンタメ大作の終わり方としては痛快さ優先でよかったと思うわ。脳が気持ちいいというか。

ま、この脳自分のものじゃないんスけどネ!(まだチュートリアル中)
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