みかんぼうや

タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜のみかんぼうやのレビュー・感想・評価

3.8
先日観た傑作韓国映画「1987 ある闘いの真実」は民主化宣言直前の韓国の民衆抗争の流れを描いていたが、こちらはその7年前に起き、後の民主化運動の先駆けとなった韓国の光州事件を描いた作品。奇しくも・・・なのか、意図的なのかこの両作品はともに2017年に韓国で公開されている。

光州事件の惨劇を世界に知らしめることになったドイツ人記者と彼の光州までの移動を支えたタクシー運転手の実話ベースの話だが、前半はコミカルなタッチで描かれるシーンが多いものの、事件の核心に迫る中盤以降は、当時の残酷さを余すところなく見せつける。荒れ果てた街並み、武器を持たない国民を次々と射殺する韓国軍部。その地獄絵図は、完全に紛争のそれであり、その事実の重さや酷さという点では「1987・・・」を超える衝撃的な歴史的事実だと思う。

ただし、映画としての純粋な面白さや緊張感、濃密さで言うと、個人的には「1987・・・」に大きく軍配が上がる。というのも、本作も韓国の歴史の闇を学ぶ意味でも非常に濃い内容であることに間違いないが、ところどころでいわゆる“過剰演出”がノイズに感じられたから(特に後半のアクション映画さながらの一連のカーチェイスシーンにはやり過ぎ感を持ってしまった)。また、「1987・・・」のほうがサスペンス的な雰囲気作りの巧さもあり先の展開が気になるプロットと絶妙な緊張感が終始作品に漂っていたように思う(対して本作の前半はコメディ性もありなかなか緩い入りなので。ただし、このあたりは好みの問題)。

とはいえ、当時の韓国軍部の惨すぎる弾圧、民衆の決死の覚悟、そしてジャーナリズムの力など、見どころは十分で、137分全く飽きさせない内容だった。

「1987・・・」のレビューでも書いたが、韓国映画はこのような韓国の歴史や政府の闇を、躊躇なくどんどん映画で世界に発信していくのが凄い。国民に対するある種の贖罪なのか、と思うほどに。中国では本作の上映が禁止されたらしい。理由は中国内で起こった天安門事件を想起させるからだとか。ディープな政治・歴史を取り扱う作品ゆえに、その国の政治やエンタメに対する考え方がハッキリ出ている。

さて日本はどうだろう?昭和の映画では政治・歴史批判の映画も多く見られたように感じるが、現代邦画では何かあるかな?現代邦画でも、こういったパンチのある作品がありましたら、ぜひお薦め作品などご紹介ください。
(形は違うが、差別を扱った意味では「マイ・スモール・ランド」や「あん」などは、社会批判的な色合いが強い作品と言えるだろうか)
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