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タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜のpanpieのレビュー・感想・評価

4.5
満面の笑みを浮かべてソン・ガンホが笑っている。
今年に入ってからこのチラシではなく4人で微笑んでいる裏はまだ真っ白なチラシを手にしていて詳細は知らないまでもこの映画の事は知っていた。
何やら韓国で本当にあった事件を題材にしているとは知っていたがソン・ガンホがあまりに楽しそうに笑っているのでそのうち私はDVDでいいかと後回しにしようとしていたらフォローしている方のあまりの高評価に少し気になってきた。
それでもまだ観に行かなかったのは「ラッキー」の2回目を観に行こうと思っていたから。
上映最終日を間違えて観られなかったのだけど(お馬鹿!(;_;))おまけの様に今作を観てしまった。
本当にそんな理由で観たいのがないから取り敢えず観てみようかなんて申し訳ない程の硬派な内容に泣いて笑って大変楽しませていただいた。
いい映画を観た。
後回しでいいかなんて、ソン兄貴、ごめんなさい!( ノД`)
やはり今回も韓国映画を観に来る人が洋画や邦画を観に来る人より圧倒的に年齢層が高く独特の雰囲気の中で鑑賞した。



マンソプはソウルの個人タクシーの運転手。
産まれそうな妊婦とその夫が慌てて財布を忘れて乗車するとか毎日の生活は決して楽ではない。
妻とは死別したが11歳の娘が一人おりマンソプの帰りを待っている。
家賃の滞納はもう10万ウォンにもなってしまった。
何とかしなくては。

その頃ソウルでも民衆デモが時折起きていた。
韓国の南に位置する光州では大規模な民衆デモが起きて軍が制圧し民衆に発砲していると仲間から聞き当時日本にいたドイツ人記者ピーターは何としても撮影して真実を世界に伝えたかった。
韓国に渡ったピーターは現地のタクシー会社に光州へ無事に辿り着いた後ソウルへ戻る迄往復するよう依頼する。
料金は10万ウォン!
焼肉屋でタクシー会社の運転手の話を偶然耳にしたマンソプは契約したタクシー会社の運転手になりすましピーターを乗せ光州を目指す。
溜まった家賃を払い娘に靴を買ってやりたいマンソプは光州へ記者を送り届けるだけと簡単に考えていたがどの道にも軍の検問所があり事の重大性を後々知る事となる。



↓ここからネタバレあります。↓






光州事件の背景を調べると1971年その頃金大中が台頭して大統領選に選出されるが朴正煕が大統領となり僅差で負けた所迄遡る。
朴大統領は韓国の経済成長を推し進めた優れた大統領であると同時に大統領に就任してからも何かと自分の地位を脅かす人気のあった金大中を付け狙い暗殺未遂事件や拉致監禁された事件もあった様だ。
朴大統領が命令したのかは不明だが相当締め付けも厳しく軍出身だった為に独裁者的な側面もあったのかもしれない。
金大中は当時国民に民主化の追い風を運んできた人物だったらしく朴大統領にとっては目の上のたんこぶと言った所か。
その後朴大統領は側近により暗殺され軍が権力を掌握した。
1980年5月18日に再び金大中が逮捕された事をきっかけに光州で20万人にも及ぶ大規模な民衆デモが決起され軍が民衆に発砲し鎮圧しようとしたのが光州事件だそうだ。
詳細が違っていたらごめんなさい。


冒頭はソン兄貴の楽しそうに歌う歌声で始まり街並みも服装も車も今より古臭く1980年を設定しているのが分かる。
以前観た「ラストプリンセス」の冒頭にも〝この作品は事実に基づき脚色してある〟旨がお断りとして表記される。
恐らく多少脚色されているだろうと周知の事実だったと思うが韓国の最初にお断りを入れるこの姿勢は潔しと思っているので私は気にしない。
現代の韓国は民主主義国家だし発展しているがかつては熱かった日本人を彷彿とさせるが熱い血が流れている韓国人は今も不正を働いた政治家やナッツリターン事件の様に金や権力を振りかざす人間に対しても容赦なく糾弾し民衆は今もデモを起こす。
それを想像したが映画が進んで行くとそんなもんじゃない程のとんでもない映像が目に飛び込んできて笑いもあった前半部とは打って変わった後半部は脚色されているだろうが当時の様子を詳細に描き役者達の迫真の演技に観ていて緊張が走った。
こんな昔の負の時代を映画として上映出来る韓国の懐の深さを素晴らしいと思うし感動する。

「デトロイト」を思い出した。
あれ程緊張を強いられる事はなかったが後半の映像は緊張して観た感じが「デトロイト」に似ていた。
私服警察官だったかチェ・グィファ演じるリーダーが執拗であの表情が悪いヤツ特有で恐ろしくて良い。
以前に観た映画かドラマで確か悪い役だった筈でこの顔は忘れなかったけど今回も長くてデカい顔に悪人役がぴったり。
対して光州のタクシー運転手役のユ・ヘジンが人情に厚く唇も厚く?凄く良かった。
彼の主演作は尽く見逃しているのだけどあの顔は忘れない。笑
もうファンになってしまった。笑笑
家に一人残してきた娘が心配で早朝に一人約束も果たさずその場を後にしようとするマンソプを叱らず罵らず「今度は娘も連れておいで」と笑顔で送り出すファン・テスルを好演していた。
ピーターからの報酬を受け取り娘に可愛らしい靴を買ってやり家路に着く前に立ち寄った飲食店でニュースは誤報を流し市民に真実が伝わっていない事に愕然としマンソプは娘に詫びながら来た道を引き返すシーンに泣いた。
「なんだよ、途中で帰っちゃうのか」と思っていた私はマンソプの娘を思う気持ちも分かったし引き返すのもよく分かった。
どちらを取っても後ろ髪を引かれるって事か。
あのニュースを観て軍に死者が出て民衆が発砲しているだなんて嘘八百を公然と流す軍が許せない。
ひととき楽しい時間を共に過ごした歌手を夢見ていた大学生ジェシクが命をかけて逃がしてくれた事を思い出し怒りが込み上げてくるマンソプ。
行け〜!早く皆の所へ戻れ!
私は泣きながら心の中で叫んでいた。

ここから先は何度も泣いた。
マンソプとピーターを逃がす為に命を落としたジェシク。
その亡骸を見てマンソプはピーターに向かって叫ぶ。
「さぁ全部撮ってくれ!
そして世界に真実を伝えてくれ!」
ジェシクの死に呆然として座り込んでいたピーターに記者である事を思い出させるシーン。
ソン兄貴、貴方のこんな役が熱くて好きです。(//∇//)
あんなに暴動を避けて早く帰ろうと言っていたマンソプが光州のタクシー運転手達と一丸となりピーターを連れて進んで危険に飛び込んで行く。
日本も軍が実権を掌握した為に誰も止められなく戦争に向かった時代があったが韓国にもこんな事件があったなんて知らなかった。
権力を得た人間は国を超えて人種を超えて怪物になり人間でなくなる。
同じ国の市民に発砲するなんて許す事は出来ない。
これを鎮めるのはピーターの真実を取り続けた映像しかなかった。
光州を出てソウルへ向かうマンソプのタクシーを軍の車からタクシー仲間が体を張って守り助ける。
韓国お約束のカーチェイスも今度ばかりは涙で霞んだ。
検問所でピーターとマンソプを逃してくれたあの軍の青年は後で罰を受けなかったのだろうかとそればかり気になった。
軍人であっても他国の敵を倒すのではなく今回はやり過ぎだと思ったのかな。
彼のその後が凄く気になったけど権力にささやかながら立ち向かう軍人が一人位いてもいいと思った。
空港でも出来すぎな位ピーターは無事出国出来てマンソプとの最後の別れにまた涙が溢れた。
最初二人は言葉もよく分からず母国で起きている事にも我関せずと及び腰だったマンソプを良く思っていなかったピーターだったがマンソプのひとり娘を想う気持ちも伝わり次第に二人は打ち解けていき同じ目的に向かって突き進む。
光州の同業者達や命懸けでデモに参加する若者達と出会いマンソプが変わって行く過程が良かった。
光州事件を無事報道出来た後ピーターはマンソプに一目会いたくて亡くなるまで必死で探していた。
ラストでピーターことユルゲン・ヒンツペーター本人がマンソプに会いたいと笑顔で語っていた映像が流れやはりこれは事実なんだなと最初に引き戻される。

あまりにも上手く逃げ出せたのでそこの所は脚色されたのかなと思いつつも最近は観る映画が「LUCKY」以外感動ものからちょっと外れていて変な映画に取り憑かれていた事が多かったので今作でまた〝人間捨てたもんじゃない〟と再確認させてもらい感動の涙を流させてくれた事に感謝した。
何度も言うがいい映画を観せて貰った。
それもフォローしている方のレビューのお陰です。
皆さん、素敵なレビューをありがとうございます!
ソン兄貴、ありがとう!ヽ(;▽;)ノ
GWが終わってしまったけどまた頑張るか…
そんな気にさせてくれた今作、涙を忘れていた私はちょっとだけ潤いました。
明日からまた頑張ろう!٩(ˊᗜˋ*)و
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