Benito

海を駆けるのBenitoのレビュー・感想・評価

海を駆ける(2018年製作の映画)
4.0
【 不思議な感覚に陥る、癒しの物語 】

日本・フランス・インドネシア合作作品。

この映画は、2004年12月26日の地震と津波で16万人以上の死者・行方不明者をだしたインドネシア・スマトラ島のバンダ・アチェが舞台となり、その悲劇が物語に深く関わっている。

そしてバンダ・アチェは戦争の爪痕が残る場所でもあって、一度は日本が占領したものの、終戦後にオランダがインドネシアを植民地にしようと攻めてきた際に、敗戦国の日本兵残党がインドネシアと共に戦ったという複雑な歴史もある。映画に出てくる島(サバン島かな?)には日本軍が作ったトーチカが残っているし。

そのアチェの海岸で倒れていた正体不明の男(ディーン・フジオカ)が発見されるところから映画は始まる。続く場面ではインタビューを受ける日本人(鶴田真由と大賀)が流暢なインドネシア語で喋っている。

震災や津波の傷跡を背負い、戦争で因縁浅からぬインドネシアと日本が繋がっていく… 冒頭から引き込まれる展開。

そしてインドネシアの風景を捉えた映像が秀逸。撮影監督は芦澤明子で黒沢清作品の数々を担当しているだけに、映像美と不穏な空気を併せ持った独特な質感を描きだしているのが印象的だった。

そしてラウ役を演じたディーン・フジオカの佇まい、存在感が半端ない。何もしないで画面の奥に佇んでいても様になる。
あとタカシ役の大賀と母親役の鶴田真由の力強さと、日本からドロップアウトしながらも父の幻影を追うサチコ役の阿部純子の存在など、特に撮影と俳優の多層的な魅力に溢れてる作品。



<ラウについての考察>
・海や自然の擬人化なんだと思う
・いつもそこにいて癒しを与える
・でも怒りや悲しみの対象にもなる
・時に人に飲み水を与え
 時に人を海に引き込む
・自然の気まぐれさや、理不尽さ、怖さ
 そんな要素を全て持っている
・つまり敵で味方でもない存在
・海に消えたけど、また現れる
 そんな存在
Benito

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