こたつむり

切り裂き魔ゴーレムのこたつむりのレビュー・感想・評価

切り裂き魔ゴーレム(2016年製作の映画)
3.5
♪ 寂しがりやの瞳はフラジャイル
  捨てよう つまらない男のファイル
  遠くを見て落ち着かない 
  その心はどこにあるの

小振りながらも綺麗にまとまった作品でした。
ビル・ナイが主演を務めたサスペンス(ミステリ寄り)ですが、名の知れた出演者が少ないからか知名度が低いのは残念な限り。好きな人には好きな系統だと思います(当たり前の話ですが)。

物語の下敷きにあるのは“切り裂きジャック”。舞台も19世紀末のロンドンですし、まさしく霧の向こう側に見え隠れする猟奇殺人こそが作品の肝。残虐表現は控えめなので、血や肉片が苦手な人も大丈夫なのは…良いことなのか、悪いことなのか。

また“独特の雰囲気”は人を選ぶと思います。
何しろ、直訳の海外小説の文章のように“人を突き放した”感が強いので、手取り足取り教えてくれる日本製に慣れていると戸惑うのは必至。しかも、展開が地味なのです。

でもねえ。
この雰囲気が良いのですよねえ。
色々とツッコミどころはありますけど、硬質な手触りが「嗚呼、倫敦だなあ」なんて言いたくなるのです。

それと『レディ・プレイヤー1』でヒロインを務めたオリヴィア・クックの、20代前半ゆえの揺蕩う存在感も見どころのひとつ。髪型や服装で雰囲気が大きく変わるのですね。

まあ、そんなわけで。
地味ながらも良作のサスペンス。
派手なアクションや、世界がひっくり返るような展開は望めませんが、犯人の心理を紐解こうとするとズブズブと“沼”に嵌るのは確実。厭な読後感が侵食してきて鳥肌が立つと思います。うへえ。

最後に余談として。
翻訳調の物語だから、邦題もそれに合わせていたら嬉しかったんですけどね。例えば『ゴーレム』を“土人形”とか“木偶”のようにカタカナを使わずに表現するのも妙味のひとつ。今はなき社会思想社のゲームブックで『火吹き山の魔法使い』という作品がありましたが、そういう雰囲気が好きなのです。
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