しの

判決、ふたつの希望のしののレビュー・感想・評価

判決、ふたつの希望(2017年製作の映画)
4.1
しょうもない揉め事が政治や歴史の問題を孕む大事に発展していく様が、まるで憎しみの火種が辺りをどんどん燃やしていくようだった。戦争が残す消せない傷、それによっていかに人は狂わされてしまうか。痛みは消えないが、同じ痛みを抱えているという希望はあるのだ。

ロジカルに白黒つける場であるはずの法廷が、次第に感情を優先させ、相手を打ち負かそうとする場になっていく。この逆転が巧妙。

こちらに正義がある、自分が犠牲者だ。だから双方折れようとしないし、むしろどんどん引けない状況になっていく…。この流れは、そっくりそのまま「あのとき」の繰り返しだ。すなわち、争いを終わらせるはずの法廷が、むしろ全ての元凶を擬似的に繰り返してしまう代理「戦争」の場になってしまうのだ。

だからこそ、我々は本作を観て事態の深刻さとしょうもなさを同時に感じることができる。そしてその感覚は、やがて法廷を変化させていく。すなわち、子孫たちが痛みを分かち合い、過去の怨恨を克服する場へと。もはや白黒つける意味は無くなるのだ。

個人的にトニー側の弁護士は最後まで気に食わなかったが、当事者同士のあの子どもの喧嘩みたいなケリのつけ方は良かった。しょうもないことが大事にはなるのだが、結局それも同じくしょうもないことなのだ。個人が歩み寄っていくしかなくて、それが一番難しいのだが、そこから先は案外「なーんだ」で終わることなんじゃないか。同じ人間なんだから。

このように、本作はモロに寓話であるため、最終的な「判決」もフィクショナルな印象が強い。しかし、子孫の「克服」の物語としてみれば、これは非常に綺麗で力強い着地だ。どっちが悪いとか、そんな不毛なことはもう止めて、ここから憎しみの連鎖を断ち切ろう。そんな「希望」が確かに示されていたと思う。
しの

しの