HicK

劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-のHicKのレビュー・感想・評価

3.5
《練りに練り、盛りに盛った作品》

【好きなドラマシリーズ】
シリーズファンです。自分はメインキャラたちと同年代だからこそ、社会人としての立場や歩みが毎回自分とリンクしているという点が好きな要因のひとつ。ただそれ以上に、生意気な勘違い野郎たちに襲いくる「残酷すぎる悲劇・苦悩・葛藤」と「それが連続で畳み掛ける人生のシビアさの凝縮」がとても魅力的。とにかく、みんなとても不憫 笑。キラキラした役者を揃えながら、全くキラキラさせず、とことん突き落とすドSな脚本が大好き 笑。

【映画版での継承】
間髪入れずに起きる事件の連続はドラマの流れをそのまま2時間に詰め込んだような展開。よって物語の忙しいペースは救命の忙しさとも重なったり。また、ひとつひとつのストーリーの答えが他のストーリーとリンクしていて、「他の事件」で経験した事を「自分の事件」に答えとして持ってくる。そんなストーリーの組み立て方や伏線の盛り込み方も健在。

【その点、裏を返せば】
リンクしまくる物語に、「だいぶ練って脚本を仕上げたんだろう」と思うと同時に、全体的に"盛り盛りの脚本"とコンスタントに仕組まれる"「ここが感動シーンです!」なシーン"がかなり目立ち、『練りに練ったら、盛りに盛った物語が出来てしまった。という制作陣の怖いくらいの熱量と暴走』を感じた。ファンサに、感動に、衝撃の展開に、とても忙しい作品。

特に「いかに観客に泣いてもらうか」という意図は劇中でもビシビシと感じる。ラストの田所先生や藍沢の危機など大きさの割にストーリーへのリターンが少なく、お涙頂戴があからさま過ぎた。

【ただ、かなり好きな演出も】
後半の「花嫁を結婚式に送り出す」からの「彼女の迎えた結末」そして「新たな救助要請:海ほたるへ出動」のシーンの畳み掛けるテンポの速さはかなり好きだった。まさに「感傷にひたる余裕も無い無慈悲な救命」の正しい演出・表現方法にも思えた。

また、花嫁が血だらけになりながらも必死に「結婚してね」と冴島に伝えるシーンは、その言葉以上に血に染まってしまったヴィジュアル面から言葉の重さ、切なさ、悲しさが伝わってくる演出で好きだった。

そして、臓器提供シーンの演出も好きで、橘が多くを語らず脳死患者の両親に「息子の心臓の音、聞いてやってくれませんか?」と一言。そのセリフだけで伝えたい事が一気に分かる素晴らしいシーンだと思った。

【なにより戸田恵梨香】
それまでシリアスな展開がメインだった緋山を一転、シーズン3からコメディリリーフとしての使用も目立ってきて、今回も本当に"おいしい"役だった。戸田恵梨香の絶妙な演技のさじ加減が冴えまくる。キャラクター設定的にも「繊細なのに大胆、クールなのに情にもろい」という真逆の二面性でありながら説得力のある一貫性をも感じれる。そんな設定と戸田の演技で魅力に溢れ、緋山に泣かされ、緋山に笑う。

あと演技面でお気に入りなのが、椎名桔平演じる橘。結婚パーティー前のうそっぽい呼び出しが本当に絶妙。下手な演技の演技。これはさすが(笑)

【どうしても許せなかった事】
あのビデオカメラが余計なんじゃ 笑。エンドロールのHANABIに被せるな 笑。これまでコードブルーは今回の結婚に向けて走ってきた訳じゃ無いのに、この使い方じゃ結婚がシリーズのゴールのように見えてしまう…。そこはいつものように、曲にのせて5人が一緒に走るシーンを見たかった。その方が「旅立ち」という終わり方にもふさわしい。とても、とても残念。そして、非常にくすぐったく、ただ、ただ、寒い。

【総括】
今作はしっかりと10年間に一区切りさせる内容でとても良かったと思う反面、様々な演出や脚本の盛り込み方がちょっと残念だった。それでも、「大切な人へどう思いを伝えるか」のメインテーマに沿って、素直じゃ無い5人が小っ恥ずかしいながらも「親友だ」「家族だ」と言っている姿を見て、長年のファンとしては見てよかったという気持ちにもなった。

【ちなみに】
藍沢がS3で言った『結婚は幸せになるためにするものじゃ無く、つらい毎日を一緒に乗り越えるためにするもの』っていうセリフがシリーズ1、ガツンと心に響いた。たまにドキッとするセリフを言わせるのも好き。ってな具合に普通は脚本も好きなんだけど、今回はやっぱり浮き足立った感があったなぁ…。
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