シュローダー

パンとバスと2度目のハツコイのシュローダーのレビュー・感想・評価

4.8
この映画が僕の琴線に触れた理由は「矛盾に挑む人の話」だからだ。この映画に於ける矛盾とは「孤独が好きな人が片想いに身を焦がす」ということ。「ずっと好きでいる自信も、好きでいてもらえる自信もない」と語る深川麻衣演じる主人公のふみは、絵を描けなくなった元美大生。パン屋で働き、バスの洗車を見ながらパンを食べ、緑内障のための目薬を指し、朝の3時に起きて青になりかけの空を見ながらまたパン屋に行く。この日常によって彼女は「孤独」になりたがる。そこに現れた中学時代に好きだった男。彼は彼で別れた元妻のことが忘れられない。そんな彼を見ている内に再び片想いが目覚めるふみ。このアンビバレントな感情を控えめな笑顔の中に内包する深川麻衣の女優としての確かな演技力と圧倒的なかわいさを見ているだけで心が豊かになっていく。また、この映画の豊かさは彼女の立ち振る舞いだけではない。目薬やバスの洗車、コインランドリーといった「なんでもないもの」の使い方がとてもフレッシュだ。目薬によって擬似的に表現される涙、バスの洗車が表す彼女の願望、コインランドリーという空間の「孤独」性。ふみの日常に存在するものがすべて彼女の抱える不確かな葛藤を象徴する。それは「スキにならずに、スキでいる」ことへの彼女の挑戦を同時に表し続ける。そこからその挑戦が向かう先としての「Alone Again」の場面。ここは宛ら「リズと青い鳥」における、希美がみぞれの楽譜に書く「はばたけ!」のメッセージと同質であり、「愛がなんだ」でも感じられた「リズと青い鳥」性の助走と言えるかもしれない。そしてさらにそこからのあのラスト。テーマを、物語を、全てを包括したあの「夜明け」の情景。そこに佇む2人の姿は、何よりも愛おしいものであった。総じて、いつまでも心の奥で反芻していたいような、共感度120%の映画であった。毎回自分が好きだった人たちのことを思い出してしまうので、観るのが毎回命懸けなのが今泉力哉作品であるが、だからこそ追いかけてしまう。「あの頃。」も楽しみである。