るる

英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2017/18 ロイヤル・オペラ「不思議の国のアリス」のるるのネタバレレビュー・内容・結末

4.8

このレビューはネタバレを含みます

序盤からめちゃくちゃよくできた脚色で感心しっぱなし。ただ、言葉に囚われた人間なので、台詞のないバレエはどうも、ノンバーバルで伝わる、すごい、とは思うものの、物足りなさも。肉体の躍動に圧倒されるならライブが一番だなとは思った。

でももう、次の場面へ次の場面へ、シーンを途切れさせない、流れがめちゃくちゃ良かった。演出が魅力的で、隙がなさすぎる。映像を使った演出は画面越しだとブーストされてしまうけど…一昔前の舞台中継と比べて、格段に映像作品としてのクオリティが高くて、テクノロジーの進化によって新しい芸術作品が生まれてる感じ、いいね。

帽子屋が、いかにもジョニー・デップ後の帽子屋、という感じがして、良いのか悪いのか。ディズニーがまた新たなステレオタイプを作っちゃったんだなと。とはいえ、童話が更新されるのは良いこと、か? 童話のディズニー化、アメリカナイズを批判する向きはもうどんどん下火になっていくのかもなとか。

アリスとジャックとの恋もいいんじゃないかな、ロリコンのアイコンとしてのアリスを大人の女性として描くことで解放する試みは現代に生きるものとして支持したい気持ち。紫の衣装はフェミニスト・カラーを連想させて、アリス=理想の聖女の青色というイメージから解放されていて良かった。
ハートの女王を母に見立ててしまうと子を去勢しようとする母の意味合いが乗ってしまって、あまりにもフロイト的すぎるというか、お話としてわかりやすくなりすぎるのではないか、男性作家ドジソンが少女に向けて書いた物語として母娘の関係を悪く描いたという意味が乗るのは気色悪すぎないかと、個人的に抵抗感がわくんだけども。
ゴス要素はアリス=魔女としての側面かとか、いろいろ文献を読み漁ったこともあって意図が読み取れて見やすかった。ヤン・シュバンクマイケルへのオマージュが垣間見えたのも興味深く。

最後に現代へとジャンプしたのも面白かった。

シルク・ド・ソレイユの『キダム』を映像で見てノックアウトされた経験が原体験のひとつとしてあるんだけど、それを超えるくらいの驚き、不思議の国の冒険が見られて良かった。

でも、少々仕掛けが過ぎる、と感じた部分も。一昔前ならもっと純粋に、舞台でこんなことができるんだ、バレエってすごい、と驚いて憧れた気がするんだけど。そりゃこれだけセットが動いて手品まで披露してくれたら楽しいし面白いよな、みたいな。ちょっと食傷気味なのかも。とはいえ、エンタメという意味では最高だったし、好みだった。
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