fujisan

天命の城のfujisanのレビュー・感想・評価

天命の城(2017年製作の映画)
3.3
『民を思う二人の男の物語』

2月9日に公開される「梟ーフクロウー」の前評判が良く、その予習として鑑賞した映画です。

2017年に韓国で公開されて大ヒット、国内の多くの映画賞を受賞した作品。出演陣も、イ・ビョンホンや、「別れる決心」で男性刑事役を演じたパク・ヘイルなど、大物俳優揃い踏みの大作。また、音楽を坂本龍一さんが務めています。



■ 朝鮮王朝時代の歴史物

本作は、韓国が朝鮮王朝(李氏朝鮮)時代の1636年に実際に起こった「丙子の役(へいしのえき)」を描いた、実話ベースの歴史物。

私自身、李氏朝鮮のあたりは受験のころの知識しか無かったので、今回あらためて整理しました。

李氏朝鮮は今の韓国の前、1392年から1897年までの約500年の長きにわたって朝鮮半島を支配していた王朝。江戸幕府が1603年から1867年の265年間なので、同じ時期であるとともに、いかに長い王朝時代だったかが分かります。

ただ、朝鮮半島は常に周辺国の事実上の支配下にあり、
李氏朝鮮の前の高麗の時代はモンゴルの元に、
李氏朝鮮時代の前半は中国の明、後半は清による支配を受けていました。

本作は、李氏朝鮮 第16代、仁祖国王の時代。李氏朝鮮が明との関係から清による支配に切り替わるきっかけにもなった、1636年の『丙子の役』を描いています。


■ 城内で繰り広げられる群像劇

当時の朝鮮王朝は明と良い関係を築いていましたが、明は没落し、代わりに清が台頭し、朝鮮にも攻め入ります。

攻め入る清は10万の軍勢。一方、朝鮮側は1万3千で勝ち目はなく、国王は追い立てられ、民とともに南漢山城に籠城。ここから、40日以上に渡る籠城戦が始まります。

映画では、清の軍勢に取り囲まれた南漢山城内で繰り広げられる、主戦派と和睦派の間の派閥争いや内紛が描かれます。

主要な登場人物とキャストは以下の通り。

1.吏曹大臣(内務担当)… チェ・ミョンギル(イ・ビョンホン)
 →民の命を優先し、清との和睦を目指す

2.礼曹大臣(外務担当)… キム・サンホン(キム・ユンソク)
 →清への屈服を良しとせず、清との戦いを主張

3.国王 … 仁祖(パク・ヘイル)

城を取り囲む清側は、和議の条件として、仁祖国王の息子を人質として差し出すことを要求。和睦か戦うか。ともに国王に仕える二人の大臣の間で、激論となります。

1636年は記録的な寒さの年。城壁を守る兵士は凍傷になり、城内には民衆も逃げていたため、すぐに食料も尽きてきます。

こんな時こそ、トップである国王がリーダーシップを発揮すべきですが、息子を差し出す事もできず、自分の首をかけて交渉することも出来ず、ただただ、家臣たちの進言に一貫性のない判断を繰り返すばかり。

そんな中、ともに自らの首を差し出すこともいとわず国のために尽くす二人の大臣の間に、いつしか信頼関係が芽生えていきます。

屈服を迫る清への回答期限は迫り、いよいよ大群が城外に押し寄せてくる中、二人の大臣はどう動いたのか。歴史が示す結末はありつつも、とても見どころのあるラストの展開となっています。


■ 感想

『トップが無能だと民がたくさん死ぬ』 。このことを見せつける映画でした。

洋の東西を問わず、籠城戦の最後はトップが自らの首を差し出す(日本だと切腹)か、開城して戦うかですが、仁祖国王はなかなか判断ができない人でした。

軍馬の飢えをしのぐために極寒を耐える兵士からムシロを奪い取り、民家の屋根わらを剥ぎ取って馬に食わせる。その結果、兵士は凍傷で銃に火薬を詰める事もできなくなり、馬も結局死ぬ。

国王は家臣にどうすればいいか言ってくれと言い、
家臣も国王に、王の仰せのままに尽くします、としか言えない。

結局何も決まらない姿は、現代でも古い体質の会社や政治に当てはまるのかもしれません。


そんな、歴史の学びと気づきを得られた映画でしたが、エンターテインメントとしてみると、若干、退屈な映画でもありました。

基本、籠城戦を描いた映画なので、「ナポレオン」のような派手な大規模合戦シーンは無く、どちらかというと政治劇。

イ・ビョンホンやキム・ユンソクの演技は素晴らしかったですが、エンディングまで展開が平坦ななか、優柔不断な国王にずっとイライラする展開が続くので、フラストレーションが溜まる映画でもありました。

ただ、李氏朝鮮時代の雰囲気や歴史についてはよく分かったので、目的は達成できたかと思います。


(以下ネタバレ要素を含みます)


■ 映画「フクロウ」との関係について

「丙子の役」は、最終的に仁祖国王が清に屈服し、息子を清に人質として差し出すことで決着します … (三田渡の盟約)

2月に公開される映画「梟ーフクロウー」は、人質に出された息子が8年の人質生活を経て父、国王のもとへ帰国するも、その後、謎の死を遂げる怪事件をもとにしたミステリー。

本事件は、今でも韓国で有名なミステリーで、犯人にもいろんな説があるとのことですから、日本でいうと本能寺の変とか、そんな感じなんですかね。

一番有力なのは、父親である仁祖国王が犯人という説らしいですが、はたして映画ではどのように描かれるのか、楽しみです。
fujisan

fujisan