しの

カメラを止めるな!のしののレビュー・感想・評価

カメラを止めるな!(2017年製作の映画)
4.5
37分ワンカットのゾンビ映画。それだけで見応えがあるが、それは本作の入れ子構造の一番内側でしかない。映画で映画の伏線を張るという前代未聞の試み。これがとんでもなく面白いだけでなく、その構造自体がクリエイターや板挟みの中でもがく全ての人への賛歌となる。見事。

映画に限らず、普段我々が何気なく享受しているものがある。その裏側にあるドラマを、まさに「裏側」を見せることで指し示す。テーマと手法の完璧な一致。しかもそれが上質なコメディとなり、新感覚の映像体験となり、創作の賛歌となり、人間の生き様となる。無駄が一切ない。

飛び道具的な面白さだけでなく、映画的演出も高級。特にラスト、「やってらんねぇ!」と叫びたくなる世界で、泥(血)まみれになりながら、それでももがき続けた先にある希望を、ある馴染み深い身体動作によって、まさに映画的に示す。物語の着地とテーマの着地が一致する。素晴らしい。

何より、96分ずっと面白いのが偉大。伏線自体が映画であるため、とにかく興味が持続し、その後パズルのピースが見事にハマっていく快感でグイグイ見せ、最後まで見終わった時には「創作そのもの」への感動が確かに刻まれる。親子という軸を入れることで、より多くの人に届くという隙のなさ。

実際に出来上がった作品が視聴者に届くシーンを入れてくれたら尚良かったが、それすら我々観客が補完している気がしてしまう。

映画、エンタメ、創作物として大切なものが詰め込まれているだけでなく、それを生み出す人を見つめる優しい視線がある。映画というよりドキュメンタリ映像的な伝え方といえばそうだ。しかし、ちゃんと「人間」が描けているから、内輪だけの作品にはならない普遍性がある。演技がマジなのかどうか混乱する部分はあったが、何度も見返すのも楽しいだろう。本当に面白かった。

本作の「構成の妙」(※リンク先ネタバレ有)
https://fse.tw/vqU7z#all

(2018.7.19追記)
インディーズ映画ならではの内容(※リンク先ネタバレ有)
https://fse.tw/GaHUB#all

(2018.8.2追記)
拡大上映を記念した詳しい感想記事
http://www.shino-hobby.com/posts/4662788

(2019.3.10追記)
その他様々な所感(※リンク先ネタバレ有)
https://fse.tw/IqbeL#all
https://fse.tw/wUAtP#all

本作は題に全てが詰まっている。そのまま「人生を止めるな!」と読み替えてもいい。転んで泥(血)まみれになりながら走り続け、それでもカメラを回し続けた先に映画のマジックが起こる。実際、この映画を取り巻く現実世界でもそのマジックは起こってるわけだから。
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