シュローダー

ゲティ家の身代金のシュローダーのレビュー・感想・評価

ゲティ家の身代金(2017年製作の映画)
4.3
リドリースコット御大将が職人仕事を見せつけた快作にして傑作。観ている間「面白ぇなこの映画は」と呟くのを止められなかった。とにかく凄いのは、撮影がケビンスペイシーのお陰で揉めに揉めたのにも関わらず、それを全く感じさせない程にスマートな映画になっているところである。133分という時間は観た後に知ったが、観ている間は一切長さを感じなかった。その時間感覚も含めて、この映画を観て連想した映画がある。ポールトーマスアンダーソン監督の「ゼアウィルビーブラッド」である。石油屋のクセのある親父がメインであるというのは、どちらも共通している。ゼアウィルビーの主人公であるダニエル・デイ=ルイス演じるダニエルプレインビューと、クリストファープラマー演じるジャンポールゲティは、対極な部分もあるが、芯の部分では非常に似通っている。プレインビューは基本的に金に対する執着は薄いが、ゲティは度が付く程のケチケチ野郎である。身代金を払う事を躊躇い、払うとしても値切った上で、税金の控除が受けられる場合に限って一部だけ支払うという徹底ぶり。では、そんな彼らに共通するのは何か。「幻想」の家族を追い求めてしまう哀れさである。特にゲティは、「絵画」という具体的なものに自分の理想を託している。市民ケーンに於ける「バラの蕾」の様に。クリストファープラマーの素晴らしい演技が、またゲティという男に深みを与えている。さらに、この映画には"シリアスな笑い"が溢れている。前述のゲティのドケチぶりもそうだが、何より笑ったのがマークウォールバーグである。とても利発な弁護士には見えないガタイの良さは、半ば竹内力の様な異様さを感じさせ、笑いを引き出す。ローマの街中にラガーマンが飛び出してくる絵面の異様さは是非見てほしい。ボストンマフィアが似合うマイケルベイ俳優の姿は必見である。総じて、リドリースコット作品の中でも、「悪の法則」が大好きな自分には、ご褒美の様な映画だった。彼のシニカルに世界を見つめる厭世的な価値観が堪能できる一品である。非常に上質なサスペンスであった。