ひば

スモールフットのひばのレビュー・感想・評価

スモールフット(2018年製作の映画)
4.5
信じられないほど厚いつくり。「疑問は知識の窓を開く」という台詞があります。イエティーの国というか理が根っこから改変されていて、この世は石が支配しているんですね。賢いのは有限の人(イエティー)ではなく不朽の石を神としていて。石に描かれた絵がこの世のすべてで、その絵でさえ先祖の誰かが描いたものなのにそれを考えようともせずに「石がそう言っている」と置き換えられてしまう。だってそれの方が楽だもんね、起因を知るよりそこから生み出された結論だけ覚えとけば生きていけるのだから。そんな中、日常に落ちてきた非日常。閉鎖環境で非日常を隠し日常を保つための他人を守る嘘は、真実を見抜く力を傷付け尊厳を傷付ける。この根深さをじっくり描いています。

この映画の一番のポイントは言葉が一切通じないつくりです。例えばミニオンのように一人でもグルーのような通訳が存在すれば別ですがそうではなく。しかもミニオンのように私たちから見て"可愛らしい"存在ではなく、完全に脅威なんですよね。自分より何メートルも高いモンスターに『ニンゲン…』って言われる想像するとめちゃくちゃ怖い。今までごめんよ野良猫ちゃんたち。で、その怪物とどうコミュニケーションをとるかというと、驚くことに身ぶり手振りより言葉が多いんですよ。一切通じてないのに。『追憶と、踊りながら』、『ククーシュカ』、『マダムインニューヨーク』等の映画のなかでは、相手と母国語が違うけれど自分の言葉を一方的に相手に叩きつけ意思を表現するシーンがあります。相手は言葉がわからなくとも、気持ちを読み取ることができます。意思疎通をはかるのに必要なのは言葉だけではなく、怒った顔、悲しい顔、笑顔を見せれば相手は気持ちがわかるのです。原始的より伝統的と言ったほうが高尚だ。私たちは同じ星の元に生まれた者同士、同じものから構成されているんだよ。
彼らは人間と資源を奪い合っている様子もなく、侵略を企んでいるわけではない。何故ならお互い存在しないものとなっているから。ではもし存在が証明されたら?生活を脅かすような闇の歴史が隠されていたら?『ブラックパンサー』では「危機に瀕した時、賢者は橋を架ける。愚者は壁を作る」という言葉で物語を閉めます。これは非常に知性と寛容さに溢れた言葉です。その橋の結びを伝って一歩踏み出し握手しにいってもよい。でも渡らなくてもよい。橋はお互いを結ぶものなのだから。いつでもそこにある。いつでも好きなときに渡ればいい。得られるものと引き換えに何かを捨てる必要などない。いつでも道は開けているのだから。新しい空気を取り入れることが大事なんだよ。
ナイルホーランくんが歌ったエンディング曲『finally free』ではこんな歌詞があります。

I didn't know
Didn't know what was real
Had to go to the edge
And the ground just to see how it feels

When you're with me
It feels like I'm finally free

何が本当かわからなかった
行かなければならなかったんだ
端へ、そして下へ、
どんな気持ちを感じるかを知るために

君がいてくれれば
自由になれる気がするんだ

ミーゴは自分のため進むことに決めたのです。
真実の探求は未知への恐怖を凌駕する。
人のほぼいない映画館でぼろぼろ泣いてしまった。人生かけて誰かを守ろうとする映画なんていくらでも見たのに、あまりに社会派だったからもうぐずぐずおばけよ。吹替えで見ましたが最強の布陣といった感じでした。なんでみんな見ないんだ、見よう
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