エイデン

暁に祈れのエイデンのレビュー・感想・評価

暁に祈れ(2017年製作の映画)
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イギリス人ボクサーのビリー・ムーアは、母国を離れてタイへと移り住み、再起をはかっていたが目が出ず、ドラッグに溺れるようになってしまう
金を稼ぐために闇試合にも出るようになり、堕落した日々を送っていた
そんなある日、ビリーの自宅に警官が家宅捜索に現れ、証拠こそ隠滅したものの、抵抗虚しくヤーバー(覚せい剤)の所持で逮捕されてしまう
タイ語が話せないビリーは警官の言うことが理解できないまま、チェンマイの刑務所に収監されることとなる
厳しい身体検査を終えるも、看守の1人は密かにヤーバーを手渡すなど腐敗の蔓延っている様子を見せる
刑務所内はまさしく混沌としており、不衛生な上 おびただしい数の囚人が肩を寄せ合って眠るような劣悪な環境だった
翌日 水汲みの列に並んでいたビリーは、苛立ちから些細なことで他の囚人と喧嘩を起こし、所内でも特に危険な囚人達が集う大きな監房へと移されてしまう
そこは刺青だらけの囚人達が徒党を組んで居座っており、珍しい白人ということもあってか、ビリーは彼らに興味を持たれ手酷い出迎えを受けるが、タバコを渡され一員と認められたようだった
だがその夜にはトイレに立ったところでリンチされ、気弱そうな囚人を集団でレイプする姿を無理やり見せつけられ、誰にも言うなとナイフで脅される
翌朝 レイプされた囚人は首を吊って死んでいたが、日常茶飯事のように誰も気にしてはいなかった
その後 ビリーは鎮痛剤を求めて診療所に行くが、無料のはずの薬のためにタバコを寄越せと看守に言われ、カッとなったビリーは大暴れし、叩きのめされた挙句に懲罰を受ける
ある日 日用品の販売のためにレディーボーイ達が刑務所を訪れ、囚人達は沸き立っていた
その中にフェイムという知己の顔を見かけたビリーは、無理を言って後払いでタバコを1箱購入する
夜も更けた頃 脱獄を試みた囚人が出たことで全員が中庭へと集められる
加担した者がいないか検査が行われると、何故かビリーの服からヤーバーが見つかってしまう
隣の囚人が罪を逃れようと服を振り替えたことに気が付いたビリーは必死に釈明し難を逃れるが、それをきっかけにビリーは初日に会った看守を見つけると、再びヤーバーに手を出してしまう
当初は無料でヤーバー渡していた看守だったが、金を求められ無一文のビリーはパニックとなるのだった
金が無いならヤーバーの替わりに商売の邪魔となるイスラム教徒を痛めつけろと言われたビリーは、誘惑に負けて実行
しかしそれは商売敵を潰したい看守の策略で、結局ヤーバーは手に入らずビリーは禁断症状に苦しめられるのだった
そんな折 ビリーの元にボクサーだった自分に憧れていた少年が面会に訪れ、試合に出て勝利したことを報告する
全てを失い自殺すら選ぼうとしていたビリーは、改めて格闘技に身を捧げることを決意し、刑務所内のムエタイジムの門を叩く



ビリー・ムーアが自身の体験を綴った伝記を基にしたドラマ映画

劣悪な環境で自身を見つめ直し、再起を図るというと聞こえはいいけど、それこそ映画のようなサクセスストーリーになることはなかなかない
そこには現実の辛さが立ちはだかるわけだけど、異国の刑務所にヤク中の自分と、この映画はビリーの前にとてつもない絶望がそびえ立っている

何が凄いって汗や糞尿の臭いまで漂ってきそうな刑務所のリアリティ
観てるだけの身ながら、間違いなく気を抜いたら死ぬという確信さえ感じる
きったねえロケーションに、主要キャラクター以外の全身タトゥーだらけのどう考えても人殺してる囚人達はまさかの本物
彼らには台本すら渡さずに撮影もしてるとのことで、あらゆるシーンの凄みと圧がヤバい
脅しのシーンとか普通にチビる
そうした生々しさはまさに本物だからこそ出せるもの
また意図的にタイ語の翻訳がされていないので、言葉の通じない不安感もひしひしと感じる
あまりにリアルな地獄がここにある

ドン底から再起を図るというと、スゴいなぁとは思いつつあまり実感値が無いものだけど、地獄っぷりがとんでもないので、ビリーの意志や偉業がとにかく映える
多くも語らない主人公ではあるんだけど、観ているうちにいつしか応援していることだと思う

塀の中でも夢は見られる
だが夢を掴むのは自分次第だ
敵を倒すというサクセスストーリーではなく、自分自身との戦いという永遠のテーマさえ感じる力強さが本作1番の見どころ
容赦なく襲いかかる現実を打ち破らんとする生き様をその目で観て感じてほしい
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