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15時17分、パリ行きのsomaddesignのレビュー・感想・評価

15時17分、パリ行き(2018年製作の映画)
5.0
大きなキャンパスに小さく描かれた絵を見るよう。
余白いっぱい。枯山水みたいな世界。

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2015年8月に起きた「タリス銃乱射事件」を巨匠クリント・イーストウッドが映画化。アムステルダムからパリへ向かう高速列車タリスの中で、銃で武装したイスラム過激派の男が無差別テロを試みる。しかし、たまたま乗り合わせていたバカンス中の米空軍兵のスペンサー・ストーンとオレゴン州兵のアレク・スカラトス、そして2人の友人である青年アンソニー・サドラーが無差別テロに立ち向かうことになる。

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80を過ぎて制作スピードが上がってる気がするイーストウッド。
若い頃の絶倫伝説も凄いけど、老いて尚益々お盛んであられる(・∀・)

「アメリカンスナイパー」「ジャージー・ボーイズ」「ハドソン川の奇跡」と実話ベースの物語が続いてて、いよいよ凝りに凝った作り物じみたドラマには興味をなくしてるんじゃないだろか。
長年の経験からか早撮りの人としても有名で、「J・エドガー」で撮り直しを要求したディカプリオと喧嘩になったのは象徴的。師匠ドン・シーゲルから受け継いだ、1発撮りに近い緊張感とライブ感を大事にしてるんだろう。
そのせいか、どんどんドキュメントに近い生々しさにシフトして行ってるような。

今作ではいよいよ役者すら起用するのやめて、主役三人は実際に事件に遭遇した本人そのまま!乗り合わせた乗客たちも本人役で再び乗り合わせたり、人によってはトラウマ級の出来事を再び味わうハメになってて、実験的というのかなんなのか。犯人役まで本人だったら面白かったんだけど、それは流石に無かった。

事件シーンはあっという間。手に汗握る暇もなく、サスペンスもドキドキも極めて薄い。が、たぶん実際の出来事ってそうだよねと思わさせられる。
映画的に一番の盛り上がりになりそうな部分を投げ打った分、事件の外縁部を丹念に描きこむことで、見る人によって感想が違う余白の広い作品になったような。
自分には普通の青年が、導かれるように事件に向かって人生の紆余曲折を経て、それまでの遠回りとも思えた経験こそが生きた話に思えて「経験に無駄なし」を見せてもらった。
世界で年100件を超えるテロ事件が起きてる昨今、いつ誰の身に降りかかってもおかしくない。普通の人がどうテロに立ち向かえるかって話でもあり、本当のヒーローはいつも無名って映画にも見えた。

マイケル・ベイの真逆、引き算で出来た映画を見た感じ。


21本目
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