ずどこんちょ

人魚の眠る家のずどこんちょのレビュー・感想・評価

人魚の眠る家(2018年製作の映画)
3.7
ある研究によれば、人は1日に35,000回選択しているそうです。
人生は選択の連続です。常に何かを選択している。しかし、本作で描かれるテーマはその中でも特に苦しい究極の選択だと感じました。

ある日突然、水の事故で意識不明となった愛する娘、瑞穂。今朝、いつも通りに笑顔で送り出した彼女は脳死を疑われます。
法的に脳死判定を行うには臓器提供の意思表示が必要です。
臓器提供を行うのか?脳死の彼女を救う術は本当に存在しないのか?
心臓がまだ動いている彼女は本当に死んだのか?
何気ない日常を過ごしていた家族たちは、最愛の娘の死に関する選択を迫られるのです。

これは東野圭吾から社会に向けて送られた問いかけだと思いました。
「あなたはどこからを死と考えるか?」
作中でも言われていましたが世界的に見れば脳死イコール死として扱われる国が少なくないそうで、脳死の段階で選択肢が残されている日本は珍しいのだとか。
一般的な物差しで考えたら「脳死も死」と頭では理解できても、いざそれが自分の大切な家族、特に自分の子供となったら話が変わってきます。
脳死を死と認めたくない。
この心臓が動いているなら、まだそれは生きているのではないか。
親がそう思うのは当然のことです。

東野圭吾はそこに更に進歩した医療科学の設定を加えました。
横隔膜ペースメーカーに、電気信号で身体を動かす技術を取り入れたのです。それにより、瑞穂は心臓と身体は動かせて呼吸もしているのに眠り続けている状態になりました。限りなく生きているように見える死。
その姿はまさに、声を失われた「人魚姫」のようで切なかったです。

堤幸彦監督ということをエンドロールで知って驚きました。堤要素を感じず、自然な作品でした。