おださん

万引き家族のおださんのネタバレレビュー・内容・結末

万引き家族(2018年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

土曜プレミアムで視聴。(本編ノーカット!)
衝撃…! すごい、すごい映画やなぁ…!! 現代社会の闇というか、実際に起こりうるだろうしなんなら自分が知らないだけで必ず起こっているのだと確信できるような内容だったと思う。当事者ではないので残念ながら想像でしかないんだけどね…。でもこの映画を知ることができて、こういう世界を知ることができて本当に良かったと感じた。素晴らしい名作。
(子ども除く)家族のそれぞれに嫌なところや汚いところ、ひどいところがあって、いやまぁそれは人間誰しも持っているものだと思うし同じ状況になれば自分もそうなるだろうと感じさせられるようなものなんやけど、とにかく貧困の中暮らす家族の様子がリアルに描かれているのが印象的だった。年老いた祖母(樹木希林)の年金を頼りにする治(リリー・フランキー)と信代(安藤サクラ)。子どもには万引きしか教えられない。亜希(松岡茉優)は家出しており、さやかという妹の名前で夜のお仕事をする。祖母は祖母で、亜希の実の両親(実は祖母の夫の後妻から生まれた息子が父親)から慰謝料なのか亜希の面倒料なのか脅迫まがいにして月に一度金をもらっている。まぁ私は家庭内がうまくいってなくて亜希ちゃんのことを海外留学中ということにしている両親がひどいと思うし同情的に見てしまうんで亜希ちゃんに対してはそこまで嫌と思ってないんですが、本っ当にそれぞれ汚い。普通に毒を吐くしね…。そして役者陣はなんせ汚い部分を演じるのが上手いし、何やろ描かれ方?というか画面も暗くて薄汚れているようで、治ら夫婦のセックスシーンもエロというよりなんか生々しく感じた。ついウワァってなるような…。亜希ちゃんの夜のお仕事シーンもね…。妹の名前でセーラー服して下着姿なってるのとかもうガチすぎて唸るわ!(そしてこれら一連のシーンは家族で観てたら非常に気まずいから二度と一緒には観ない。←)
でもそんな登場人物らそれぞれにある良いところが映し出されていて、なんか憎めないようになっている。う〜ん、良いな〜ってのとウワァ最悪…が交互に繰り返されてやってくるような(笑) 虐待されてた子の保護もそうやけど、信代がりんと一緒にお風呂に入ってたり、見えない花火の音だけ聞きに縁側出たり、みんなで海に行ったり、お金とかの損得だけでなく偽物だけど家族としての温かい繋がりがあるみたいで素敵やったなぁ…。多分、だからこそ切ないし悲しいしやりきれない思いになるんやと思う。犯罪をしていなければこの家族は出会ってもないし関係性を維持することもできないし、父親として祥太に何かしてやりたいのに教えられるのは万引きしかないという、家族を続ける手段が犯罪しかないのがなんとも悲しくてやるせなかった。もちろん父親・母親になりたいという利己的な思いもあったかもしれないけど、でも子どもたちの命を救ったのは事実だし優しさと愛がちゃんとそこにはあったと思う。
何よりお父さん・お母さんと呼ばなくていいんだよ、と言いながらも呼んでほしい気持ちがあり、しかし強要はしなかったことが優しさであり愛情だったよね…。それなのにさ〜〜〜😭 すべてが明るみになって逮捕されたあと安藤サクラの取り調べシーンでは、「あなたのことなんて呼んでたの?(言外に「お母さん」とは呼ばれてなかったんでしょ、と聞こえる)」とか問い詰められちゃうんだよ〜〜〜違うんだよ結末と出来事だけ見るんじゃないよプロセスを見てくれよ…!!(しかし自分が視聴者側ならそうは思わないんだよ分かるよ) 多分観た人全員言ってるけど本当にこの取り調べシーンは秀逸。安藤サクラの演技が半端なさすぎる。絶望なのか呆然なのか諦念なのか悲哀なのか安堵なのか、もう全く分からないけど色んな複雑な感情が伝わってくる。もちろん泣いたけど()、すっげえなあって圧倒された衝撃のほうが大きかった。「…なんて呼んでたんだろうね…。」って、本当に本当に悲しくて何も知らない女性取調官にそんなこと言われるのが悔しくて、何も言えなかった。すごいな〜!?? 女性取調官の方も淡々とでありながら事情を推し量ることもなくただ正義として目の前の女の悪事・罪を責めてる感がすごかった。彼女が正義を貫いたキャラクターとして演じきれているところがすごい、意義ある演技だった。だから余計に正義が必ずしも善ではなく、物事の善し悪しと正義なのかどうかは相容れない概念なのだということを改めて実感させられたよ…。めっちゃ、めっちゃ良かった…このシーンだけでも見る価値ある。
取り調べシーン含め、すべてが暴かれていく流れは本当に複雑な感情を抱えながら観てたなぁ…。万引きを「妹にはさせるなよ」と止めてくれた駄菓子屋店主の柄本明(これまた最高)のおかげで、祥太はどんどん万引きをすることに苦しむようになってて、だから祥太のためには絶対ここで終わりにさせてあげたほうが良かったとは思うんやけど、りんちゃんは虐待家庭に戻る方向で話が進められていくし、亜希ちゃんは祖母の真実を知り自分を置いていたのは慰謝料をせびるためだったのかと愛を疑うことになってしまうし、先述した安藤サクラ含め治が実は自分の本名・祥太を息子に名づけていたっていうのももう夫婦の悲しみが現れまくっててものすごく共感してしまうし…。「何で拾った子に自分の名前を付けたのか」、その問いがとにかく悲しかったな…。本当に何でなんだろうと思ったけど、個人的にはそれこそが本当の家族になりきれなかった現れだったと思う。すごくすごく、もしかしたら本物の家族よりも温かいシーンもいっぱいあったけど、祥太を置いて逃げようとしてたり祖母の死よりもお金のこと気にしてたり結局は自分のエゴが大きくて、だからこそ自らを忘れたくなくて本名を子どもに付けたのかな、と…。悪いことしてる自覚はあったから罪滅ぼしのつもりで父母と呼ばせなかったりしたのかな、と…。でもエゴばっかりとか罪滅ぼしだけとか割り切れないとは思うけどね、だってもちろんやっぱりちゃんと愛もあったと思うし!!(長い)
この家族は絶対終わらせないといけなかったから、祥太のためにも夫婦のためにも終わらせられたのは良かったと思うけど、でも良かっただけでなく救いがなさすぎるところがやっぱりやるせないんすわ…!! 虐待家庭に戻ったりんちゃんもこの後正直死んでしまうのではないかと思っている…。一人でボロ家に帰っていった亜希ちゃんも何を思っているのか不安だし…。私は祖母にも多少の愛があったと思ってるけどそんなん亜希ちゃんは知らないからもう一生人とか信じられず生きていくんじゃないかなと思ってしまうね〜夜のお仕事の時の常連さん(4番さん)と幸せになってくれ😭!!(亜希ちゃんと4番さんが心通わせるシーンめちゃくちゃ、もう泣きそうなくらい好き、この映画で1、2を争う好きなシーンです。)
実は安藤サクラのシーンよりも、この映画で一番心に残ってて、何よりも一番言葉に言い表せない衝撃だったのはラスト。祥太がバスに乗っていって治と別れるシーンと、一人マンションの外で遊ぶりんちゃんのシーン。久しぶりに再会した祥太と治は釣りしたり勉強のことを話したりしてて、そういう家族“みたい”だった時の様子を見ると、皮肉にもあの家族が終わって良かったのだと実感できてなんかすごく心が落ち着いた。そして夜、布団を並べて眠る時に二人はお互いに言えてなかったこと・聞けてなかったことを話し合う。「自分のことを置いて逃げようとしたのか」と祥太に聞かれて、「そうだ」と答える治。その後、祥太も家族が終わる原因となった祥太の万引きが、実はわざと逃げ遅れて捕まったのだと話す。この言えばあの家族内では裏切りになる行為を自ら話した祥太が偉かったよ…泣いちゃったよ…そんでそれに対して治も別に祥太のことを憎んではないのよ…結局それが真実なのよ…終わらせなきゃいけなかったのよ…。(何回でも言う) そしてここももちろんめちゃくちゃに名シーンやねんけどこの後!! 2人別れるシーンで祥太はバスに乗っていき、バスが発車し離れていって、治は走って追いかけて、でももちろん追いつけなくて、お互いにもう見えなくなって、そこから祥太は窓の外を振り返って、声にならない息だけぐらいの声で「父ちゃん」って口を動かすの…!! すごすぎて鳥肌立ったわ!!! なんやろ、表現力?? 圧巻すぎない!?? 何それ!?? ボロッボロに泣いてしまった…!! もう家族に戻ることはないからこそ、最後に感謝なのか同情なのか皮肉なのかもう何にも分かんないけど「父ちゃん」と口に乗せるのがすんごく胸に来た…!! 感謝とか同情とか皮肉とか色々言うたけど多分どれも不正解で、個人的には祥太は何にも考えてないと思う。それほどあまりにも自然で、そう呼ぶのが当然かのように「父ちゃん」って最後に言ったのが…!! しかも厳密には言ってないのよ、声にも出してないのほんま口の動きだけなの…!! 家族の時には呼ぶことはなかったのに、お互いに隠してたことを話してしがらみも何も無くなって、もう家族に戻ることはなくなったからこそ自然に「父ちゃん」と呼べる…。(しかしやはり父親ではないから声には出さない。) 分かる!??(分からん) いやもうこの事実がなんかもうめちゃくちゃ切なくて胸がぎゅうぎゅうしてボロボロ泣いた!!! でも悲しいわけじゃないのよ、むしろシーン見てパッと浮かんだのは愛情って言葉だったので、これも愛情なんだと思うとすんごい感情の溢れる映画なのよ、素敵だわぁ…でも彼らの愛情ゆえ二人一緒に生きる道が彼ら自身にも観客にも選ばれないのが切ないのよ…。しかもここで終わらんからね!??
ここで終わらずにりんちゃんが一人マンションの外で遊ぶシーンになるのよ!! もう一人で部屋の外に出されてるのとかしゃがみこんで遊んでる様子とか再び虐待家庭の冷たい闇に戻ってしまったことが明らかで、胸が苦しくなりながら観てたんやけど、最後、本当に最後、りんちゃんがマンションの塀だか柵だかから顔を乗り出して何か言おうとして息吸ったまさにその瞬間に終わるの!!! な、何言うたん〜!??ってなるやん!!! この終わり方はすごかったな…普通に考えればりんちゃんは家族の時に呼べなかった「お母さん」って呼ぶんやろうと想像できるけどそこは描いてくれずにあくまでも想像で終わるんだもんな…。この観客に解釈任せる感じ、可能性は無限大な感じ、痺れるね…!! 息吸ったその瞬間で終わったことで、りんちゃんの一言は「お母さん」なのか「助けて」なのか何なのか分からないし、どんな言葉でも正解で不正解になった。だからこそ観客の心には強く残るし(少なくとも私の心には響いた)、ずっと考え続けなくちゃいけない問題にさせられたと感じる。現実の虐待とか社会問題とかもそうなんだよね〜…! あえて「お母さん」と呼ばせないことで、特定の誰かでなく大衆や映画を見た“あなた”自身の助けが必要なのだということを浮き彫りにしたラストだったといえるね! 深読みしすぎかな!? でも素晴らしくて余韻ある、非常に表現力の溢れたラストでした!! さいっこう!!!
題材は重いし、やるせなくてもどかしい結末の映画やけど絶対また観ます!!!
おださん

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