晴れない空の降らない雨

サイコノータス 忘れられたこどもたちの晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

3.8
 スペイン製の長編アニメーション。放射能事故で荒廃した島で、環境汚染・貧困・病・虐待・いじめ・ドラッグ等々にまみれた、希望のない生活から脱出を試みる子どもたちのお話。彼女たち以外にもいろいろなキャラクターの内面に焦点を当てていく青春群像劇でありながら、セカイ系(?)的な疑似スケール感もある。
 動物を擬人化したキャラクターたちの可愛らしさに反して、なかなかショッキングで難解な作品だった。和製アニメを咀嚼したうえで自分たちのテイストをしっかり出してきている感じ。例えば、ディンキと両親の会話シーンに典型的にみられるような「ポップな俗悪さ」は欧米圏らしいと思う。こうした得も言われぬ不快感を和製アニメで味わうことはほとんどない。ドラッグカルチャーとか、食事が基本的に気持ち悪いところとか。描き込みの緻密さ・簡潔さのバランス感覚、色づかいのセンスも、日本とは違うかなと。
 作中では、時計、貯金箱、ゴムボートといったモノたちも話す。彼らは実によく喋るが、話せば話すほど内面の空虚さが露呈される。島の住人はクズになるか、心に闇を抱えながら生きている。動物やモノの擬人化とは、ディズニーを筆頭にアニメーションのお家芸なわけだが、魂(アニマ)が壊れかかっている世界では、「生命を与える」というその原義も歪んだ形で提示される。
 ここには、動物やモノに言葉と二足歩行を与えて、ヒトである観客に親しみやすくするという安易なアニメーションの技法への反省をみてとれる。このことは、終始無言のバードマンや鳥たちの存在による対照からも明らかだろう。彼らの魂の救済は、汚染された自然の再生に託されることとなるが、それは樹木(すなわち生命の象徴)としてモチーフ化されている。本作の最も美しい瞬間も、宮崎駿を思わせる巨大な樹木が現れるときである。