むっしゅたいやき

祈りのむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

祈り(1967年製作の映画)
4.5
宗教・因習の排他性と桎梏、人間愛に就いて。
ジョージア、テンギズ・アブラゼ。
同監督の『祈り三部作』の嚆矢濫觴となる作品。
峻厳なコーカサス山地を舞台に採った、映像叙事詩である。

正邪の象徴を登場させると云った神話的世界観を、陰影強度の有るモノクロームフィルム、荘厳な雪化粧を纏った舞台へと落とし込み、更に詠嘆や詠唱にはバッソ・オスティナートを被せる事で、見事に19世紀初頭の現代劇として普遍性を担保しつつも昇華させている。
非常に完成度が高い作品である。

本作の主題は、作品冒頭に掲げられた「人の美しい本性が亡びることはない」と云う文言に集約されており、人の愚かさと、尊厳を謳う内容となってる。
類型としては、自らの衷心から発した、哲学としての隣人愛に尽瘁すると云う、所謂自己犠牲型の物語であるが、上述の完成度の高さ、特にロングショットの凄絶さ、銀残しなのか黒塗りかは知らぬが─陰の澄明さ、聖女処刑時の光の遣い方に目を奪われ、説教臭さは認められなかった。

ジョージアと云う国は、彼のヨシフ・スターリンの出生地であり、大粛清の行われた地でもある。
この為、本作もスターリン主義への批判と絡める事が出来そうでもあるが、飽く迄主題側面に過ぎず、また端的に言って野暮でもあろう。
作品が放つ強烈な熱量を、余計な知識武装もせず純粋に受け止める─、そんな鑑賞を推奨する。

スコアは個人の嗜好を反映している。
原作由来の寓話性は、唯物主義で想像力の足りぬ私には卑近な物として感じられず、ストーリーラインやテンポ、カットの繋ぎも一本調子に感じられた。
この点、アブラゼの次作鑑賞に期待する。
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