アンナカレーニナ映画版をまだまだ見てみる⑤
アマプラ見放題じゃないんだけどヴロンスキーの役者がドラマ版「悪霊」でスタヴローギンを演じてるとのことで気になって気になってとうとう見てみた。
なんてヘビーなエンディングなんだ。。ハリウッド映画に毒され過ぎてて最後にセルゲイ側のシーンが来るって思ってたのにそのまんま終わった。。さすがだぜ。。さすがだよロシア。。
タルコフスキーの言うとおり、ロシアのものはロシア語でロシアで作られなければならない!本当は翻訳もなしでなんだけども(そしてロシアに限らず全てにおいて言えることだが)
基礎教養として原作既読済の観客に向けて作ってるから生半可なことできない、っつーか、ハリウッドでまた映画化されて衣装デザイン賞だけどアカデミー賞も獲ってるし、負けてらんねー!本物を見せてやる!っつって作られたんじゃとゲスる今作ですが、5作見てきた中で一番豪華だった。絢爛豪華なジョー・ライト版以上に金がかかってた。そして気合いもむちゃくちゃ入ってた。さすがロシアなロケシーンの圧巻さよ。
映画化されすぎていてこれ以上こねくり回すにも限界だろうってとこで、30年後を舞台に、アンナの息子セルゲイと出会ったヴロンスキーによる回想という構成にした設定が新鮮。最初に「記憶を改竄しているかもよ?」「あなたの記憶を知りたい」って会話を入れて、映画オリジナルにアレンジしていても違和感がないよう牽制を挟んだところも良く出来てる。
ロシア以外でこんなアレンジは難しいだろう。ロシア映画だからこそだし、ロシア映画でしかできない。そして映画化としてやりつくされて辿り着いた結果、どう作ったって原作の足元にも及ばないんだから、こういう形で独自の解釈をする道に辿り着いたようにも思う。
序盤はヴロンスキー視点から見知ったストーリーを見る新鮮さに感動し、凡夫ヴロンスキーだからこそ観客がすんなり視点に同調できる点も上手いなと感心して見ていたんだけど、後半へ行くに連れやっぱ無理だよな、そうだよなと、ヴロンスキー視点を保って終わらせると別物になってしまうことに気付かされてちょっとガッカリ。
セルゲイとヴロンスキーが出会ったときに「なぜ母(アンナ)はあの選択をしたのかわからない」ってところから話が始まっていて、そこを見せるためのドラマになっているので、アンナの行動理由、感情を観客が理解できるように作らないといけなくて、そうなるとヴロンスキー視点ってのは破綻してしまうわけで。中国人の少女のくだりがアンナと孤児の関係に結びつけているのかもしれないが取ってつけたレベルだった。ヴロンスキーは現代シーンが圧倒的に良かったから交流シーンはとても良いシーンになっていたけど、それでヴロンスキーとアンナのエンディングに繋がるのか?としっくりこなかった。
セルゲイとの出会いも、ヴロンスキーの回想の一端となったことにしかその設定が機能してないのも難。原作にないそれらを掘り下げすぎると原作からの逸脱になっちゃうとはいえ、全く別物になるってところには挑戦しきれなかった感じ。結局いつもの「アンナ・カレーニナ」になってしまった。
マクシム・マトヴェーエフは想像以上で、今まで見てきた中で最も存在感のあるヴロンスキーを好演していた。(主人公だからというのを差し引いても)
アンナ役エリザヴェータ・ボヤルスカヤも誇り高いアンナを熱演していてパッケージから感じたイメージ以上だった。好演していたマトヴェーエフを完全に食ってた。ハリウッドのアンナを色々見てきたけどレベルが違う。アンナに対する解釈の深さが全然違う。しばらく「アンナ・カレーニナ」は作れないでしょう、というほどの演じっぷり。完璧なアンナを見た。泣きそうになったー。こんな短時間でアンナのあの選択を理解できるように経過を演じきっていて痺れた。
カレーニンもむちゃくちゃ良くて、グレタ・ガルボ版のカレーニンを褒めたんだけど、撤回したい、あんなこと言って恥ずかしいと思うほどだった。
設定上完全スルーだったキティとリョーヴィンをちゃんと数分でも登場させていたのは良かった。説明なく目立たせていたから原作未読の人にとっては「誰?」状態だったろうけど笑
セルゲイ役の子役が大根だったのとオブロンスキーが今まで見た中で最も原作のイメージからかけ離れたオブロンスキーだったのは謎。ここまで凝っててそういうことしちゃう!?という笑
ヴロンスキーの語りによるアンナとの最後の日の原作との齟齬は原作既読者総ツッコミが入るレベルの改変でワロタ。「おまえ、その都合の良い改ざんはなんだ!?笑」みたいな。
エピソードの取捨選択がザルヒ監督版を彷彿とする感じで、さすが本国、ストーリーの流れよりも原作の重要部分をピンポイントで抽出している。カレーニンのくだりが特に。映画だけ見ていると主要3名の変化にはついていけないだろうけど、既読済だと必要十分で、キャラの解釈とドラマの再現度は満点だし、説明が少なくても感情の流れが理解できるよう重要なシーンに絞って、役者の演技と構成で原作を思い出させてくれるので十分伝わる。
ただやっぱそれはザルヒ監督版同様、一長一短な印象を拭いきれない。映画単体として見ると首を捻らざるを得ない。ハリウッド版は原作からむちゃんこ遠いんだけど、単体として見れるように作ってるところは評価ポイントになる。ロシア版は2作しか見てないけどやっぱ「原作既読ですよね」って前提がある。今回は30年後が舞台でヴロンスキーによる回想という新解釈だったのでそこらへん期待したんだけども。
現代のシーンが日露戦争なので戦地描写が多く、野戦病院での長回しを見るとボンダルチュク版「戦争と平和」を思い出す。イタリアやイギリスが近年ドラマ版作ってるし、そろそろ本国ロシアでも「戦争と平和」作ってもいいんでない?見たいっす。
あとアマプラ課金のやつだったんだけど、ハイビジョンが110円高くて、ケチってSD画質にしてしまったことを激しく後悔している。たかが110円。。ちきしょう