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ゲッベルスと私のkyokoのレビュー・感想・評価

ゲッベルスと私(2016年製作の映画)
3.8
「私は何も知らなかった」
そう言い切る103歳の老女の苦悩は深い皺に隠れて見えない。

国営放送局での職を得るためにナチスの党員となったのは、たとえて言うならdocomoに入社するからauからdocomoに乗り換えた、程度の感覚だったろう。
宣伝省に入ったのも、単に速記者としてのキャリアアップをはかっただけで、そこに政治的思想は存在しない。「断ることなどできなかった」と言っているが、そもそも断る理由など持たなかったのではないか。

当時の彼女に罪があるとすれば、それは「政治に対する無知と無関心さ」だ。目先の充実さだけにとらわれ、国家も世界も見ようとはしなかった。
強制収容所でたくさんのユダヤ人が殺されていたことも知らなかった、ユダヤ人の友人が消息不明になっていたのも知らなかった、私は何も知らなかった……

無知がもたらすものの恐ろしさ。さらにはこれが現代のどの国でも容易にあてはめることができる恐ろしさ。
彼女が若い人たちにこの映画を見てもらいたいと言い残しているのは、そこに重大な教訓があるからだ。なのに岩波ホールを埋め尽くしているのは見事に老齢の方たちばかり……。
これはもっといろんな世代の人が観るべきだ。

※今作では世界的にも初めて公開されたという映像が挿入されている。ショッキングな内容も多く含まれるので要注意。
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