イルーナ

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドのイルーナのレビュー・感想・評価

3.4
イングロで20世紀の世界史で最大の闇ナチスに、ジャンゴで自国最大の闇である奴隷制に復讐を果たしたタランティーノ。
今回の標的は、ハリウッド史の闇であるシャロン・テート事件。
今までは誰もが知っている歴史の闇でしたが、本作は業界内での事件を扱っており、かなり予習が必要なタイプになります。
おまけに映画業界が舞台なだけあって、内輪ネタも盛りだくさん。
正直タランティーノ作品でもトップクラスに上級者向けの作品じゃないでしょうか?
(他に上級者向けだと思うのは、本作と同じくテーマが若い世代に刺さりにくそうな『ジャッキー・ブラウン』、カタルシスを得るまでがあまりにも長く退屈な『デス・プルーフ』あたりだと思う。人によっては舞台にたどり着くまでが長い上にそこから密室劇が続く『ヘイトフル・エイト』も入りそう)
実際、ネタバレを恐れるあまり前情報なしで観に行った結果、さっぱり楽しめなかったという意見も結構見かけます。
ですが、本作のメイン軸は時代に取り残されて落ちぶれた俳優リックと、相棒のスタントマンであるクリフの物語。
リックはかつての西部劇ドラマのスターだっただけにプライドが高く、中々に面倒な性格。

・マカロニウエスタンへの出演を打診されてもそのスタイルに拒絶反応を示す
・セリフが覚えられなくて荒れまくる。おまけによく泣く

そんな彼に常に寄り添い続けているクリフですが、彼もトラブルメーカーだったり妻殺しの容疑があるなど黒い噂があったりで仕事がなくなっている。
その近所に、わが世の春を謳歌するロマン・ポランスキーとシャロン・テート夫妻が越してくる……
上り詰めた者はいつか取って代わられる運命。しかし、これから上り行く者たちを悲劇から救ったのもまた彼らだった。
スパーン牧場のヒッピー集団を手玉に取るクリフがカッコいいし、ヒッピー集団がシャロン邸からリック邸にターゲットを変えた時点でニヤリ。
やっぱりバイオレンスとバカやらないと気が済まないのね……もちろん、観る側はそれを期待しているわけですが。
でも以前の作品ではナチスに奴隷制という巨悪が相手だったことを考えると、今回はどんなに派手にぶちのめしても、どうしても小ぢんまりした印象になってしまう。
たとえクリフを雇えなくなっても友情は終わらないし、生き延びたシャロン達と新たな絆を結ぶという終わり方はきれいなんですけどね。

ただ、かつて時代の寵児と呼ばれたタランティーノがここまで内向きになってしまったのには、ちょっと観てて心配になるものがあります。
実際、数年前から『キル・ビル』のユマ・サーマンの事故、ワインスタインとの関係、ゴリッゴリの親イスラエル化という具合に悪い話が相次いでいる。
本作でも、ブルース・リーの描き方が悪すぎて遺族やブラピから苦言を呈されているわけで。
さらに元案では噛ませ扱いだったらしい。それじゃもうブルース・リーじゃなくって『浦安鉄筋家族』の春巻じゃん!
本人は「最初の自伝にこう書いてあった」「フィクションだからいいじゃん」と言い張ってますが、映画秘宝的なノリはもう今の時代だと合わないのよ……
他の事件も相まって、本作からは時代の流れについていけなくなりつつあるのを感じているみたいで、何とも寂しい気持ちにさせられます。
こだわりの人だから尚更そうなんでしょうね……

アニヲタwikiにまとめた記事
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