とてもよくできたタイトル。
VICEには「悪」「欠陥」などの意味があるが、第三義くらいに「代理の、副」という意味がある。
これはアメリカで初の「影の政府」を組織し、政府のあらゆる権力を握り、史上最悪のアメリカ副大統領と呼ばれた、ディック・チェイニーという政治家の話。
もっとも注目すべきは、クリスチャン・ベールが意味不明なほどに太り、演技をしている点。
若い時から年老いたときまでずっと演じているので、まるで本物の人物を見ているかのような錯覚さえある。
もともと心臓が悪く、映画の中でも度々心臓が痛くなってうずくまるシーンがある。
途中、心臓移植の手術を受けるが、このシーンはとても象徴的。
自分の手は一切汚さずに、正当な理由を見つけて、他人に手を汚させて、自分はごっそりと利益をもらう。
映画の中では典型的なアホとして描かれるジョージ・W・ブッシュ大統領をうまく言いくるめ、自分に権力を付与し、でも自分が何かをしたという痕跡は一切残していない。
若干推測に頼っている部分はあると思うが、アメリカ人たちが異常さに気がついて大騒ぎしたのだから、やっぱり何かがとち狂っていたんだと思う。
残念ながらこの映画がアカデミー作品賞を取れなかったのは、政治的な配慮ではなく、芸術性の問題だったんだと思う。
非常に強いメッセージ性を持ちながらも、この年に賞を獲得したグリーンブックがあまりにも良すぎた。
