きんゐかうし卿

ヘレディタリー/継承のきんゐかうし卿のネタバレレビュー・内容・結末

ヘレディタリー/継承(2018年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

 


随分と内外の評価が高いので観てみた。どっしりとした落ち着いたカメラワークに焦らずじっくりと日常が描かれる内、微かな綻びが出始め、終盤に集約される。『ローズマリーの赤ちゃん('68)』に近いテイストだが、“ローズマリー”と云った登場人物ではなく、明確に騙されているのが観客となる救いの無いラスト──トラウマ級と迄は云わないが、後味の悪さはそれなりで、ひたすら闇が深く戸惑った儘、物語は幕を閉じる。ただスラッシャーやスプラッターを好む向きや単純明快なカタルシスを求める層等からは嫌われるかもしれない出来。80/100点。

・冒頭、ザッと説明的なテキストが流れるが、これをうっかり読み流してしまった。ただこの内容を判ってなくても充分、本篇内で取り戻せた。グロ描写やゴアシーンも程々にあるので、耐性の無い方は要注意。

・鳥の首を落とし、自動車事故では首が飛び、クラマックスでも……と首(頭)が重要なアイテムとして扱われている。誇張された登場人物達に登場するアイテムやガジェットはアンバランスであり、他にもどんよりとした不穏な空気感と居心地の悪い不快感はラスト迄付き纏うが、これが本作の大きな魅力の一つと云えよう。この雰囲気とテイストは、R.エガース監督の『ウィッチ('15)』を想起させる。特に畳み掛ける様に異変が起き続けるラスト近くでは、先導する者こそ違え、儀式やそれを見守る全裸の人々の出迎え、人が垂直に浮かび上がり、そこへ導かれる者の心情の変化等の展開や描写は、まるで三年前に製作された彼作をお手本としたかの様に酷似している。

・開始直後からの何を観せられてるのか判らない感~後半、主人公が錯乱・崩壊した後、善の救いが一切皆無と云った展開が佳かった。本作のマクガフィンとして登場する“パイモン”もスパイスとして効いている。

・何よりも“アニー・グラハム”を演じたT.コレットの熱演無くして、本作は成り立たなかったであろう。観客はクライマックスで彼女から突き放され、視点を失った儘、置いてけぼりを喰らってしまう。“スティーブ・グラハム”の燻し銀G.バーン、如何にも頼りなげで抑えた演技のA.ウォルフの“ピーター・グラハム”も佳いが、そこ迄可愛くも無く不気味ではあるが、どこにでもいそうな“チャーリー・グラハム”のM.シャピロの存在感が深く印象に残る。

・序盤、葬儀のシーンで、T.コレットの“アニー・グラハム”がスピーチを行うなう中、棺内の“エレン・テーパー・リー”と“チャーリー・グラハム”のM.シャピロがお別れをする際、その奥でアンクレジットのM.ブロッコービック演じる“微笑みかける男”は種明かしがなされる後半に“信者”として再登場している。

・夫婦役のT.コレット('72年11月1日生まれ)とG.バーン('50年5月12日生まれ)だが、実年齢では22歳の歳の差がある。

・“チャーリー・グラハム”のM.シャピロと“ピーター・グラハム”のA.ウォルフは同じ演劇学校に通っており、クランクイン前からお互いを知っていたらしい。亦、A.ウォルフは“アニー・グラハム”のT.コレットと同じ誕生日(11月1日生まれ)である。

・“ピーター・グラハム”を演じたA.ウォルフによれば、オリジナルカットは優に三時間を超えていたらしく、家族間内の会話シーンを大幅にカットして、現在の尺に収まったのだと云う。

・脚本と監督を手掛けたA.アスターは、T.コレットの“アニー・グラハム”に展示会のスケジュールを確認する電話の声でカメオ出演を果たしている。尚、脚本執筆に当たっては、主要登場人物達の詳細な過去とバックストーリーを設定した後、書き始めたらしい。

・序盤でA.ウォルフの“ピーター・グラハム”が授業を受けているシーンの黒板には"Themes"の下に"□Escaping Fate"とあり、これは『ハロウィン('78)』へのオマージュであり、ほぼ同じ内容が本作の授業内でも論じられている。亦、リメイクされた『ハロウィン('18)』の予告篇と同じ日('18年6月8日)に本作は一般公開された。

・本作が長篇デビューとなったA.アスターは、『コックと泥棒、その妻と愛人('89)』に強い影響を受けたと答えている。亦、本作は『回転('61)』、『ローズマリーの赤ちゃん('68)』、『赤い影('73)』等の古典的ホラー映画の他、『普通の人々('80)』、『アイス・ストーム('87)』、『イン・ザ・ベッドルーム('01)』と云ったファミリー・ドラマにも影響を受けたと云う。

・当初のシナリオでは、雪山が舞台となる予定であったが、スケジュールの都合で折り合いがつかず、5月~6月の撮影となってしまった。ただクランクイン後はスムーズに進み、ユタ州のパークシティに在る"Utah Film Studios"をメインに僅か32日間の撮影で済んだ。

・鑑賞日:2018年11月24日