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嵐電の8637のネタバレレビュー・内容・結末

嵐電(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

とても好きな映画。現実感を捨てずに表現されるノスタルジックさが素敵。初見は昨年のTAMA映画祭授賞式。

嘉子と譜雨の恋は美しい。不器用な感じはあるけどそれが観てる側からしたら最高。台本読みがミュージカル調だったり、出てくる人達が必要以上に明るい感じもする。

子午線と南天の恋は危うい。前者もそうだけど喧嘩別れが多かったり、子午線の度を越した電車好き、また南天の方も修学旅行生が隣についてるから他人行儀な感じがする。特に気にもならなかったけども。

彼らに比べて井浦新演じる平岡は、ただ彼らの観察をしているようだった。それも"井浦新"で。学生たちの演技を間近で確認しているような感じがした。
しかし彼も彼で、妻の斗麻子と京都に泊まった時の事を思い出していた。あの二人は元から確固たる関係があったはずだがどこかぎこちなく見えた。

スローテンポの中で現れる狐と狸の漫談も最高。
カフェで行われたフィルム上映会は本当に行われた(かもしれない)くらいにドキュメンタリー感があった。全てがノスタルジーな世界の欠片。

最後にはもうどこまでが現実かは分からなくなってる。それぞれの佳境が良いものに塗り替えられた感じ。
子午線と南天は薄ーい修学旅行生に見守られながら恋を実らせる。正直言って初見の時二人の恋は意味が分からなくて、でも今回解けた。3つの中で一番の悲恋だろう。
譜雨と嘉子は、いつかの助監督の監督した映画で共演した。そこでの台詞は、以前に二人が交わした言葉たちだった。これは台本か想像か。ラストシーンの二人の再会だって現実か危うい。
それに比べて平岡と斗麻子の再会には現実みがあった。

この映画は「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ジャパン」にもなり得た。温かみのあるノスタルジックな世界観は学生と、質の荒いカメラ、そして鈴木卓爾監督の眼差しにしか出せなかったはず。
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