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希望の灯りのSPNminacoのレビュー・感想・評価

希望の灯り(2018年製作の映画)
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深夜の静寂、ぽつぽつと明かりが灯る地平線。スーパーの巨大倉庫に並ぶ在庫棚。緑色の制服を着て名札を付け、黙々と仕事を覚える新人クリスティアン、先輩ブルーノ、ミス菓子売り場マリアン。ひっそりと「闘うための煙草」をふかし、フォークリフトは時にぎこちなく、時に優雅にワルツを踊る。
ただ淡々と仕事を映してるだけでも退屈しない、むしろ心地良い。集まっては別れ、同じような風景を繰り返し、単調なリズムを刻む日常スケッチ。だが粛々と観察するような撮影が、しがない労働者たちを尊厳とともに厳かに浮かび上がらせ、そこにペーソスと孤独、詩情が滲み出る。ささやかなクリスマスパーティ、同じく夜勤のバス運転手、廃棄食品を分け合う連帯が心温める。
3人のキャラクターは東西統一後の三世代を象徴し、表の明るい店内が旧西側だとすれば裏の倉庫は旧東側だ。クリスティアンがマリオンを手に入れられないように、モノに囲まれても自由にならず、フォークリフトには1人しか乗れない。やがて、過去を思い続けるブルーノは新たに出直し中のクリスティアンに「仕事」を引き継ぎ、使命を終えていく。
ここにだけ存在する関係は美しくも儚く、フォークリフトはまるで神聖な道具となり、モノとモノ、人と人との繊細な距離を運ぶ。帰宅すればひとりぼっちの現実があるからこそ、職場は自宅よりも家、同僚は家族…そして、ある意味避難所として機能する。ここは比べたり引け目を感じる必要がない場所であり、閉塞感と同時に安心感があるから。「イピサ島なんか行ったことないくせに」とからかう仲間も当然行ったことないし、ビーチの夕焼けは壁の絵やパズルでしか見ることがない。それでも、ここにはシベリアも海もあって波の音だけは聞こえる。それは希望というより慰めかもしれない。
何となくフレデリック・ワイズマンとカウリスマキを合わせたような引き算のドラマ、ブルースが似合う労働者映画。とはいえ多くを語らないだけに、それ以上謎めいて深読みさせるものがある(ブルーノとマリオンの関係とか)。けど、スプラッターすぎるフォークリフトの教習ビデオには笑っちゃった。
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