たく

教誨師のたくのレビュー・感想・評価

教誨師(2018年製作の映画)
3.8
受刑者に悔い改めのための道を説く教誨師が、死刑囚達との対話を通して自己の信条や過去に向き合っていく話で、閉鎖的な空間を舞台としたさまざまな人間像に引き込まれた。大杉漣の最後の主演作で、誠実な役柄に彼の持ち味が最高に活きてた。「夜を走る」で興味を持った佐向大監督が、一癖も二癖もある人物達を見事に描き出してて見応えがある。「夜を走る」で主演を務めた足立智充が端役で出てたね。

教誨師である佐伯が、それぞれ癖のあるキャラを持つ6人の死刑囚と定期的な対話を重ねていく。心を閉ざして口をきかない鈴木、いかにも関西のおばちゃん風に喋り倒す野口、淡々と自分語りを続ける小川、文盲の進藤、気のいいおっちゃんみたいなヤクザの吉田。そして世の中すべてを冷笑的に見てる高宮が、まるで神が佐伯の信条を試すために寄こした試練のように彼の前に立ちはだかる。死刑囚との対話を通し、佐伯が自分の過去のわだかまりに向き合っていく展開で、卓上カレンダーの使い方が上手かった。高宮から「教誨師の仕事をしてるのは自分が楽になるため」という鋭い指摘を受けた佐伯が、高宮との辛抱強い対話を通し、聖職者である前に一人の人間として彼に対峙するに至る流れにジーンと来た。

登場する死刑囚たちが話してる姿が極く普通の人にしか見えないんだけど、口をきかなかった鈴木が次第に心を開いてきたかと思えばストーカーだったことが分かるところや、吉田が警官が席を外した隙に佐伯に誰にも話してない罪を告白するところ(ヒッチコックの「私は告白する」みたい)など、ふとしたところに狂気がにじむのが怖かったね。高宮の最後の場面で彼が佐伯を抱きしめるのは「戦場のメリークリスマス」を思わせた。佐伯から文字を教わった進藤が哲学的な問いを深めていき、改めて人が人を裁くことの意味を突き付けてくるラストから、観客をじっと見つめてくる佐伯の視線にドキっとさせられる。カメラが拘置所から出ると同時にアスペクト比が拡がるのも印象的。
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