タキ

騙し絵の牙のタキのネタバレレビュー・内容・結末

騙し絵の牙(2021年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

映画館で見た予告の感じを予想してたら全く違う。もっとド派手な仕掛けのあるジェットコースター的なドラマかと思っていた。本編を見ると出版業界の内情を描くお仕事ドラマに近い作りで、売れないのに権威だけはある文芸誌の出版社での立ち位置やバランス重視の賞の選考、大物作家と新人作家の扱いの差、出版社と町の書店を仲介する流通ネットワークがあること、Amazonの台頭と電子書籍等、出版業界の苦悩が伝わってくる。これは単純に悪玉善玉と分けることはできない。売れなければ出版社は潰れるしかなく、かと言って本当に作りたいものを諦めるのは編集者としてのプライドが許さない。その微妙にグラつく綱の上を絶妙な塩梅で大泉洋が渡っていく。飄々としてトボけた顔をするがキメるところはバシッとキメる。さすがに上手い。原作小説は「罪の声」を書いた塩田武士氏で主人公の速水を綿密な取材のもと大泉洋でアテ書きしたらしい。映画版でもそのアテ書きした人物が演じたわけだが、大泉洋のパブリックイメージとは違った仕上がりになっていてこれは監督の狙いなのかなんなのか。ただのオモロイ元気なオジサンだと思っていたらとんでもないダークな部分を隠しもっていて、もしかしたらこれが彼の本質なのかもしれないという気もする。なんだか底が知れないようなところも彼の魅力のひとつなのだ。
しかもざっとあらすじを読むと原作の展開と映画版は違うらしい。「面白い」ということに至上の価値を見出す速水(大泉洋)と紙媒体で読む小説の生き残りをかけて戦う高野(松岡茉優)という構図はなかなかよい。傍若無人のオジサンをギャフンといわせる松岡茉優。大泉洋と対して引けを取らない存在感があるとみた監督の松岡茉優という俳優への信頼感が見える。
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