Hana

ジュディ 虹の彼方にのHanaのレビュー・感想・評価

ジュディ 虹の彼方に(2019年製作の映画)
3.8
神に選ばれた人しか感じることができない、絶望と歓び。


彼女の人生は苦しみに満ちていて、とにかく悲しい、なのにショーの輝き、圧倒的高揚感。
スターが抱える実像と虚像の矛盾と、演技で見せる少女のような笑顔と老婆のような背中のその矛盾。

「人生をただコツコツと積み上げていけば、それだけでいい」
わたしと彼女はこんなにも違うはずなのに、その言葉はあまりにも私たち凡人と地続きだった。ラストシーンの会場の一体感に、涙が止まらなかった。素晴らしい音楽が、無条件に人と人とを繋げてしまう最高の瞬間だった。
消費されるだけの存在ではない、彼女はそこに愛を求めていたし、観客の中にも彼女に救いを見出す人はずっといた。
感情ないまぜのスクランブルエッグ。混ぜ混ぜの不可分、不可逆。


田舎に留まり、地元のつまらない男と結婚して、家事と育児に疲れ果てる、そんな平凡な生活に、君は満足できるのかい?

このしょっぱなのスカウトマンの言葉、ずるいねえ。
幼い少女がそんなこと言われたら、そっちの道に飛び込んでしまうことはすごく自然なことに思う。
そうやって私たちはいくつもの分岐点で、非凡な扉と平凡な扉を選んでいくのかもしれない。大抵の人は、「私はもうこっち側じゃない」ってなるところを、彼女はそちら側を選び続けてて、(それは彼女の意思であり、周囲の強要であり、そうせざるを得ない環境であり、そのバランスと真意は私たちには計り知れないけど、そういうの全部ひっくるめて【運命】とか【才能】って言うんだと思う、残酷だけれど本人の意思だけでは勝ち上がれないのも現実世界だと思う)、たがらこそ、逃げれない苦しみは強く。

「何かしらになれるかもしれない」「特別な何かがあるかもしれない」なんて幻想の扉を横目に、私は着々と凡人の扉を開き続け、【安心・安全】というぬるま湯の中でふやけてしまっています。それもそれで、いいもんだけど、少しばかり心が燻るのは、まぁそういうことなんだろう。安全圏からの羨望ほど、凡庸なことはない。
Hana

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