ケイ

幸福なラザロのケイのレビュー・感想・評価

幸福なラザロ(2018年製作の映画)
4.0
1980年代のイタリア。小作制度の廃止を隠す侯爵夫人のもとで無給で働かされている人々が暮らす村に住む一人の青年、ラザロ。ある事件をきっかけに事実が明るみに出て、人々は村を後にするが――。
村人たちにこき使われても、侯爵夫人の息子に連れ回されても、明るく静かな眼差しでごく穏やかに善意で応じるラザロがたどる運命は、聖書に記されたよみがえりのラザロのようでもあり、たとえ話「金持ちとラザロ」のラザロのようでもある。彼の善意、ごく自然にすべての人に向けられる愛の尊さを、生きることにしか目が向いていない人々は理解せず、雑に扱う。気づかれることを待つでもなく、ただそこにいて人々を見つめ続けるラザロの無垢な眼差しは、誰にも守られていない泉のようで、変化し続ける社会と暮らしの前ではあまりにも無防備で無力だ。
寓話的で宗教的、けれど現実的な物語。懐かしい感触のリアルな映像も印象的だったが、フィルム撮影によるものと知って納得した。
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