BATI

COLD WAR あの歌、2つの心のBATIのレビュー・感想・評価

COLD WAR あの歌、2つの心(2018年製作の映画)
4.6
録音が凄まじく良い!そこはキュアロンの「ROMA」とタメを張るのでは?野蛮と思える程に爆音で鳴り響く民族楽器、高揚音楽、ヴォーカル、表現者にとって自由が存在しない1950年代のポーランドにて、音楽だけは演者のプレゼンスを誇示していた!

近年観た映画では久々に定型ヘテロの恋愛が核の映画で、ポリティカルな背景はあっても柱はこの二人の追いかけあいのリレーである。終わってみるとこれはオム・ファタールに出逢った女、ファム・ファタールに出逢ってしまった男の物語だ。画の強さに引き込まれ、年の差はどうでもよくなった。

奔放で無軌道に見えるヨアンナ・クーリグはレア・セドゥのようにも見え、彼女演じるズーラは自由意志を持ちつつも自由ではない。冒頭の彼女を見つめるヴィクトル、その視線を知って見つめ返すズーラの視線。色々ティピカルになりがちなのにそう感じさせないのはとにかく切っていくカットの力!

普通140分くらいはヨーロッパの監督ならかけそうな話なのだが、耽溺に陥らせる暇を与えずにとにかくカットが変わる。だからか説明が不足しているシーンもついていくしかなくだがそれがいいという。それでいて冒頭の廃墟のシーンは「この場面を覚えておいて下さい」とばかりにじっくりと映す。

ネタバレになるので書けないこと沢山あるんだが、とにかく画の力が強く、タルコフスキーの影響が良い意味で出ていた(近年よくあるタルコフスキー的なのやりたいです!なものではないのは◎)。あと、音が主役みたいな映画でもあるので、これから観る方は音響こだわったシアターで観て身を委ねて欲しい。

話の終わらせ方は賛否が分かれると思うが、そんなことがどうでもよくなるくらいにラストショット、そしてあの光景で聴こえてくる音の力に私はひれ伏してしまった。
BATI

BATI