【モンティパイソン後の世界】
大学生の頃「面白いから！」と同じゼミの友達が1本のビデオを貸してくれた。
【空飛ぶモンティパイソン】
（なんじゃこりゃ？！）
・・・いかん、ハマッた。
とにかく１から１０までぶっ飛んでいた。日本では見たことがない斬新過ぎる笑い。
いや、日本では出来ないタイプの笑いだったんだと思う。
「エリザベス女王」を茶化してみたり、フリーメイソンを馬鹿にしてみたり、スペイン宗教裁判をギャグにしてみたり・・・。
それを天下のBBC（日本で言うならNHKみたいなもん）が放送してたってのも凄い。
とにかく彼らの笑いは何でもありだった（笑えるなら裸でピアノ弾いてみたり）。
でも、彼らの笑いにはどこかセンスがあった。
もの凄くシュールな風刺なんだけど、「皮肉を皮肉る」というか「王様の耳はロバの耳」というか、普段悪意の欠片もなく目にしていた『差別』や『欺瞞』を、真逆から突っ込んでそれを笑いに変えてさりげなく叩く。
それは決して正義感などではない。
「世の中はコメディだよ」この一言に尽きるのだろう。
「ダイバーシティ」という言葉が叫ばれるようになった昨今、何故か若干の息苦しさを感じているのは僕だけだろうか？
決して「多様性」を否定する気はない。
世界には、いや僕の隣にだって僕とは違う人間が座っている。
僕は彼をトモダチと思っている。
そして彼を認めることから既に「理解」は始まっている。
だけど、お互いの存在を「権利」として主張し始めた途端、「対立」にも似た受け入れ難い雰囲気が生まれるのは何故なんだろう。
―――僕がスパイク・リー作品を強烈に意識しだしたのは「マルコムX」を見たときからだった。
そしてそこで「決して話し合いでは解決できない問題」が世の中にはあるという事をまざまざと教えられた。
奇しくもそれも自分が大学生の時。
マルコムＸで何が衝撃だったかというと、やっぱり一番はKKKだった。
あの映画に出てくるKKKはとにかく恐ろしい団体で、黒人は「分離ではなく排除すべき対象」でしかなかった。
その手段や方法が狂信的で一種のカルトにしか見えなかった。
そしてその描き方は僕の中で長らく「白人至上主義者＝悪、虐げられる黒人＝正義」という構図になっていた。
これは単純に白人→黒人という差別（攻撃）の図式でしかなく、「（黒人は）悪いことをしていないのに、何故か虐げられている」という意識に繋がる。
でもその後色んな作品などに触れていくにつれ、少しずつ様相が変わっていく。
キング牧師が、ネルソン・マンデラ元大統領が、モハメド・アリが、オバマ元大統領が、ほんの１ｍｍずつ世界を変えていった。
だけど、構図はちょっぴり変わったけど衝突はやっぱり消えなかった。
虐げられていたもの達が「権利」という力を手にしたとき、それは一方的な圧制の終わりを意味したのではなく、更なる対立の火種を生む結果となったのだ。
そんな時代を切り取ったのが今作だったようにも思える。
奇しくも今回のアカデミー賞では黒人差別問題を取り扱った作品がもう1作ノミネートされ、見事最優秀に輝いた。どちらも同じ食材を使って料理したはずだけど、片方は高級レストランで出てくるポークチョップになり、もう片方はファストフードのハンバーガーに挟まっているベーコンだった。どちらが美味しいという事ではない。審査員の御口に召したのは「あっち」だったというだけのこと。
全体的にアップテンポかつコミカルなので、事の重大さが伝わりにくい部分ではあるけど、実はそれこそがこのお話しの大切なノリの部分であり、所詮「世の中はコメディなんだよ」と聞えてきた気がしてならない。
だからこそ、ラストに流れる実際のシーンにやるせない怒りを感じるのだ。
（頼むから、笑える話にしようぜ）と。
あと、この映画で興味深いのはキャスティングですよね。
先にも書いたマルコムXでスパイク・リーはKKKに代表される過激な白人至上主義思想と闘った。
そして主演はデンゼル・ワシントン。
時は流れ、KKK自体も以前のような過激さは影を潜め、黒人が警察官になれるところまで来ていた。
しかし、それは黒人達が徐々に声（言葉）を出せるようになってきたという事でもあり、対立の構図は昔とは明らかに異なっていた・・・。
そんな、実はデリケートな時代にKKKへ痛烈なパンチを喰らわすのが、またもやスパイク・リー。そして主演のジョン・デヴィッド・ワシントンはデンゼル・ワシントンの息子。
つまりスパイク・リーは時を越えて白人至上主義と闘って来たということ。
そして、それは例の「Oscar’s so white!!（オスカーは真っ白！！）」に繋がる。
やっぱり凄いわ。
