シネラー

存在のない子供たちのシネラーのレビュー・感想・評価

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
4.5
以前から観たいた思いつつ、
我が家のHDDに録画してそのままと
なっていた本作を漸く初鑑賞。
鑑賞して明るい気持ちにならない事は
分かりきっていたが、
この中東でまかり通る一つの現実は
目を背けずに知らなくてはいけないと思った。

12歳の少年ゼインが
自身の両親を"自分を産んだ罪"として
法廷で訴える迄に至る、
その過酷な生い立ちを描く内容となっており、
世界の片隅における狂った社会が
存分に描かれていると思った。
自身の出世届といった
社会的な証明書が無い子ども、
貧困、児童労働、難民、人身売買、
児童婚、虐待、
負の連鎖が重なっていく生活が
何とも心苦しい限りだった。
ドキュメンタリーだと思える程に
現実味を帯びた描き方が素晴らしく、
主役であるゼイン演じる子役も含めて
出演者が実際に難民である事も、
本作が現実にある事をより実感する
要因にもなっていると思った。
又、劇中に登場する小物において
アメリカ的な娯楽を感じる物が多くあり、
キャプテン・アメリカのズボン、
ミッキーやミニオンの玩具、
少年刑務所にも描かれるミッキー、
スパイダーマンの衣装を模した
ゴキブリマンを名乗る老人、
そういったカルチャーが皮肉的にも
感じられる部分でもあった。

よく子どもの虐待のニュースで
"世話できないなら産むな"と耳にするが、
本作はとても強い説得力のある形で
この言葉を使用していると言えるだろう。
神の存在どころか両親を否定し、
自分自身の存在すらも否定しかねない
少年の最後のメッセージは、
子どもが抱いて欲しくない感情を
大人達に告げているように思えた。
法に触れる言動もあるゼインだが、
妹サハルや赤ちゃんのヨナスとの
振る舞いからも分かる通り、
その性分は優しいと言えるだろう。
特にヨナスとの関わり方は、
最後の別れの場面では悲しくなる位に
儚く感じられた。
全てはゼインを取り巻く社会が問題であり、
そこを逞しく生きる為の術なのだと
捉えられるところだった。
僅かな希望のある結末を迎えるものの
問題点の抜本的な解決ではない為、
最後のゼインの表情から報われる
未来が始まって欲しいと思うばかりだった。

生まれた場所が違うだけで
その後の人生が大きく変容し、
子どもに哀しみを押し付けてしまう
世界に嫌気も差してしまうが、
こんな世界が現実にある事を
知る意味でも必要な映画だと思った。
当たり前な事は国々で大きく異なる事を
痛感するのと同時に、
ゼインのような子どもが少しでも
救われて欲しいと思うばかりだ。
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