空海花

存在のない子供たちの空海花のレビュー・感想・評価

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
4.6
今更ですが…
2019MyBest⑧レビューを。

昨年のMyBest10くらいはレビューしたいと言っておきながらやっていなかったのと、「娘は戦場で生まれた」繋がりから。
今は、レバノンがまた別の印象…


社会派映画の新しい形を観た。
登場人物は元々役者ではなく、レバノンの現実を生きている人達。
主人公のゼインがこの世界にあって驚く程の美しい少年だが、彼を見つけたのは監督の力以外にこの映画を撮る為の必然だったのではないかと思わせる。そして監督は見事に撮りきった。

撮影中、出演者の一人が不法滞在で拘束されたが監督が保証人になって釈放されたというエピソードがある。
現状を世界に訴えるという形で表現するものは多くあるが、これはフィクションでありながら彼らの生活に一歩入り込んでいるような作品だ。
実話を参考にした創作もこれまでに数多くあるが、そういったものとも趣を異にする。
彼らの生活において培ってきたものを見せてもらうために、懐をあけて、関係性を作り上げた上で、彼らの生きてきた世界を演じさせているようなリアリティと何より体温を感じる。
監督の中では、訴えたいことが現状だけでなく、まず法律なのだという具体策があるのだ。

ゼインは親を訴える。一概に両親を責められないということはわかる。でもそれがわかっても解決にはならない。裁判官まで本物の裁判官を起用する徹底ぶり。
監督はこうしようと思うと出演者の方から現れたのだと語る。

私はその策が正しいのか、というより足りるのかどうか判断もつかない。
が、自分の答えを出している人の撮る映像はただ委ねるものよりやはり圧倒的な強さがある。

ゼインが絶対にしたくなかったことをせざるを得なくなった時はどうしようもなく泣けた。

赤ちゃんヨナスがすごく可愛い。妹も…
もう見ていて辛くてどうしようもなくなった。が、自分の胸が張り裂けている場合ではないと

映画の結末には少しの救いがある。
そうでなかったらと思うと、普通に帰れそうにはなかった。
この年は「バハールの涙」も印象的だった。
ドキュメンタリーでは移民問題を扱った「ヒューマン・フロー/大地漂流」が良かった。


2019劇場鑑賞71本目
2019MyBest⑧
空海花

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