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アメリカン・アニマルズのsomaddesignのレビュー・感想・評価

アメリカン・アニマルズ(2018年製作の映画)
5.0
真実に基づく物語ではなく、真実の物語

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2004年に実際に起こった4人の大学生による強奪事件の映画化。退屈な大学生活を送るウォーレンとスペンサーは、くだらない日常に風穴を開け、特別な人間になりたいと焦がれていた。ある日、2人は大学図書館に保管されている時価1200万ドルを超える画集を盗み出す計画を思いつく。2人の友人で、FBIを目指す秀才エリック、すでに実業家として成功を収めていたチャズに声をかけ、4人は「レザボア・ドッグス」「オーシャンズ11」などのクライム映画を参考に作戦を練る。作戦決行日、特殊メイクで老人の姿に変装した4人は図書館へと足を踏み入れるのだが。

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犯罪ドラマとモキュメンタリーの合わせ技、新感覚。
嘘みたいな真実の物語であり、信用のならない語り手モノ。
事実は同じなのに、立場によって見え方・語り口が変わる。


2004年にケンタッキー州で実際に起きた事件。地方紙の珍事件記事で扱いで終わりそうな事件をヴァニティ・フェア誌が深掘り記事を掲載して全国的な知名度に。飛行機移動中の記事を読んだバート・レイトン監督が事件に興味を持ったことがきっかけで映画化。

バート・レイトン監督にとっては初の長編ドラマだけど、元々ドキュメンタリー畑だけあってドラマ性とドキュメントの融合した独特の筆致で、現代の若者たちの焦燥を炙り出す。
007の次回作の監督候補に推されるほどの注目株だけあって、ドキュメンタリックに被写体を突き放す距離感と豊かな映像表現が良かった。ダークで彩度の低いドキュメンタリータッチから、絢爛豪華なケイパーシーン(妄想)、登場人物の心象風景を映像に落とし込むセンス・バランスが狡猾。

事実を元にしてるだけあって、実際の反抗シーンを楽しみにしてる人にとっては序盤〜中盤まで冗長に感じられるかも。計画そのものは無謀だし、動機そのものも外野から見れば『馬鹿げてる』としか思えないし。

犯行後、自分たちでさえ「誰も上手くいくと思っていなかった」と語るほどの無謀な犯罪計画を、学歴もある恵まれた家庭に育った4人の若者が実行するに至ったのか。
日常に閉塞感を感じ、怖いもの見たさで一線を越えるスリルのキワキワに立つつもりが、ホントに一線を越えてしまったアホさ加減。
愚行YouTuberかバカッターの最たる事件て感じ。

若いことが何より貴重で、若いうちにしかやれない事を追い立てられる現代の若者の焦燥感。老いて平凡な大人になることへの恐怖だったり、万人の記憶に残る特別な存在・特別な行動をしないといけないと思わされてる現代の病理が見えてくるリアリティ。

主犯格ウォーリーことエヴァン・ピーターズ。X-MENのクイックシルバーよりキック・アスの童貞仲間役のが印象深い。何者かになりたくて、それでも何者でもありたくない。暗い焦燥感に突き動かされる脳筋少年。黒々とした目の演技が素晴らしかった!
主人公スペンサー演じたバリー・コーガン。ダンケルクしか見たことないけど、彼もウォーレンに感化される形でアーティストとして不幸のイニシエーションを経験したいと願ってるナイーブさが感じられて良かった。
(劇中出てくる鳥の絵は実在のスペンサーが書き下ろしたものだとか。すげえ!)

特別であろうとするがあまり、自分が凡人であることから目を反らしたり、一周して凡俗に留まれてることの有難味に気づく映画かも。
伝説級のアーティストやロックンローラーが特級の不幸話を持ってるのって、不幸を芸術に昇華する力量ありきの話であって、平凡が退屈とイコールじゃないって話として刺さった。芸人さんやアーティスト志向の人って進んで破滅型な人生歩みがちっちゅーか。


46本目
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