KnightsofOdessa

読まれなかった小説のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

読まれなかった小説(2018年製作の映画)
3.0
若さ故なのか大学を出たという優越感からなのか、周りの人間を親でさえ見下し、手当り次第当たり散らす主人公シナン青年は、図体とプライドだけデカくなったものの中身は空っぽな"トロイの木馬"かもしれない。作家先生に喧嘩腰で批判を続けブチギレられたのは、外面的には人魚像の外れた腕を川に落とすような達成感があったのかもしれないが、結局心のなかではブルブル震えていたというあの感じは、誰しもが持っている頑張りすぎてしまった若かりしあの頃の想い出を嫌らしくもつついてくる。金が無くなれば家族に当たり散らすが論理的思考は欠いていて、伝道師どうしがガチ喧嘩を始めると横で指を加えて見ているしかない。彼は万能感と優越感のせいで事物の目測を大幅に誤っているのだ。

私とてまあまあ名の知れた大学にいるから、潜在的な優越感のようなものはあるのかもしれない。特に昔は今より数段自信に満ち溢れた若々しい大学生だった気がしている。大学卒業直後のシナン青年と修士1年の私は恐らく同学年であるが、当時の私ならこれくらいの万能感があったに違いないし、未来の自分から見れば今の私だって万能感に溢れているのかもしれない。

映像的な美しさは欠いていて、徹底的に空っぽな自分を浅めの理論で守り続けるシナン青年と周りとの口論を撮り続けているので、多分半分くらいは寝てたけど、まあ悪い話ではなかった。私もちゃらんぽらんな父親が好きではないが、そのうち彼のことも理解できる日が来るし、なんなら未来で彼のような父親になっている気がするのでそのへんは考えないようにしている。
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