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マイル22のsanbonのレビュー・感想・評価

マイル22(2018年製作の映画)
3.5
緻密に描かれているけど腑に落ちない、大どんでん返しサスペンスアクション。

アメリカ「CIA」には「オーバーウォッチ」という作戦が存在する。

オーバーウォッチとは、ドローンやハッキングなどで敵の位置情報や必要物資の調達、供給を行う「通信技術チーム(通称:マザー)」と、その支援を基に作戦を実行に移す「フィールドチーム(通称:チャイルド)」の2組で編成され、双方は2000マイル(3200キロ強)の間隔を置いて点在し、決してその存在が表沙汰にならないようアメリカにおいて最も厳重に扱われるその秘匿性の高さから、必ず実行前には辞職願を提出し"国との関連性"を絶ったうえで"極秘裏"に行動を起こさねばならないという。

そんなフィールドチームでリーダーを務めるのは「ジェームス・シルバ」という、CIAの特殊工作員。

彼は、幼少の頃より「活動過多」と診断されており、通常よりも思考速度が速すぎるあまり、自己抑制が利かず感情的に陥りやすい"超絶短気"な性格の為、腕にはゴム製のリストバンドを常時巻いて、感情が昂ぶった際に自制出来るようそれを弾くのが癖となっていた。

そして、今回発令されたミッションは、東南アジアにあるとされる架空の小国「インドカー」で、大都市を6都市分も塵芥に変えてしまえる量の「セシウム」を奪還する為、その在りかが記されたハードディスク端末を手に、アメリカへの亡命を希望して大使館へとやってきたインドカーの特殊警察官である「リー・ノア」を、無事に22マイル(35.4キロ)先の輸送機へと送り届ける事だった。

しかし、その端末には「ウロボロス」という自滅プログラムが仕込まれており、8時間後には中にある情報が全て消滅してしまい、その解除コードを知るのはリーのみ。

また、輸送機は現着後の滞在時間はわずか10分間しかなく、それまでにリーを待機場所まで誘導しウロボロスが発動する前にコードを聞き出し解除しなければならないのだが、その行く手を阻むのはリーの亡命を阻止しようと企むインドカー政府。

そして、政府の容赦ない妨害工作により、22マイルの距離は地獄絵図と化すのだった。

今作で描かれる内容は、偶然にもまた「アメリカVSロシア」の因縁が根底にはある。

そうそう、アメリカとロシアの関係とは、今作のように血みどろでドロドロとした腹の探り合いを仕掛けあうような本来敵対国同士なのだ。

うん、これを先に観てもらえれば前回レビューした「ハンターキラー」が、どれだけ現実離れした奇跡に近しい共同戦線だったかがよく分かるので、もしハンターキラーに興味をお持ちの方はついでに今作もセットで鑑賞して貰えれば、ハンターキラーの内容に更に深く感動出来るだろう。

今ならレンタルショップの陳列棚で、この2作は直ぐ近くで見付ける事が出来ると思う。

そして「マイル22 」の内容に関しては上記に書いたことくらいしか話せる事は無い。

あとはネタバレ厳禁だ。

ただ、この輸送ミッションにおいて、どうしても腑に落ちない事がある。

先述したように、今回のミッションはオーバーウォッチの作戦下で実行される訳だが、何故なのかその作戦内容が敵側に"筒抜け"なのだ。

ブレインであるマザーの司令室は、アメリカで最も厳重に隠されている場所の筈なのだが、ハッキング攻撃まで受けて攻勢はみるみる後手に回っていく。

ハッキングも位置情報が特定出来なければ仕掛けられない筈なのに、どこでそんな重篤なミスが生じたのか"綻び"となるキッカケに触れられる事が無かった為一向に腑に落ちない。

また、このオーバーウォッチ作戦も劇中では2度実行中の場面が描かれるのだが、そのどちらとも指示系統にミスがあり実働部隊を危険に晒してしまう事になる為、"究極の頭脳"としての存在感を確立しなくてはいけないところ、その信憑性を植え付ける事に全く成功出来ていなかった。

これが冒頭から感じられない状態で、どんどんと窮地に立たされていくもんだから、こちらも「この作戦じゃこうなってもしょうがないよなぁ」と、物語に入っていけず傍観の眼差しで最後まで観てしまった。

様々なディテールへのこだわりは多分に感じるものの、要となる設定に不明瞭さを抱いてしまった為、一歩下がって鑑賞してしまった、実に惜しい作品であった。

とはいったものの、全体的なクオリティは一定の水準は満たしていてまあまあ面白く、アメリカではかなり珍しいラストが描かれるので、あくまでハンターキラーの前座として観て貰えれば損した気分にはならないかなと思う。
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