るる

英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2018/2019「ファウスト」のるるのネタバレレビュー・内容・結末

3.7

このレビューはネタバレを含みます

初ROHシネマ…かな。『不思議の国のアリス』はwowowで見たので、映画館では初。ナショナルシアターライブにも足を運びたいんだけど、なかなかな。

ゲーテのファウストが好きで…正確には某訳の、メフィストフェレスが好きで。ついでに手塚治虫による翻案は天才的だったなと思ってる。縦横無尽のモチーフと、老いたインテリ男が求める俗物的な青春、哲学的苦悩、人間味あふれる結末が好きなんですよね、キリスト教的教訓や聖女の献身の部分はニガテ…メフィストが神を腐す台詞は全部好き。とにかく悪魔贔屓。

初オペラ…かな? 『不思議の国のアリス』はバレエだったよね? ダイジェスト映像ではなくフルでみたのは初めて。これがハイカルチャー! ケッ!ってのが本音でした。グノーのファウスト…そんなに好きじゃないな? というのが正直なところ。劇場でナマで観たいかというと…気が引けるな。。

老いたファウスト博士、どうしたって老いては見えない切なさ。舞台、ましてやオペラ俳優はどうしたって健康的な身体なんだなと思ったりした。
若返りの演出、十年前の現代演劇…と比べたとしてもチープに感じたな…? 2017年の『不思議の国のアリス』の映像的驚きったらなかった、最先端ってこういうことか、と思ったので、比べてしまうと…オペラだからそういうものなのか。

そしてメフィストフェレス…ちょっとイメージと合わなかったな、恰幅が良い…ハンサムだったけどね…オペラ俳優の体型ってあんな感じなのかな。声を出すための身体なんだなあと思った。

群衆を惑わすメフィストフェレス、ニヤニヤできたけど…男性のパフォーマー、芸人を見くだす男たち、イケメンに夢中な若い女たち、私たちもまだまだ、と意気込むおばさんたち、この世の真理かもしれないけど…なんだその低俗さ? 悪魔が出てくる場としては適切…なのかしらと首を捻ってしまった。キリストの磔刑、身体から血のように吹き出たワインを舐める女たち、示唆的で良かったけど…あからさま過ぎない?とか。わかりやすさが良いのかな…

マルガリートがイメージと合わなくて、オペラは少女の役をおばさんプリマドンナがやったりするからヘンだ、ってなにかで読んだんだよな、ああー!これかー!と。思ったりした。
狂ってから(狂うという言い方は良くないんだろうけど、文学的言い回しとして使いますね)の髪振り乱した姿には哀れっぽさや繊細さを感じられてよかった、大竹しのぶさんのようだった。

しかし、あまりにもキリスト教讃歌で、やや辟易。

イマドキ、こんな保守的な話を無批判にやっていいの?なんなのハイカルチャーって、と思ったんだけど、古典…だからいいんでしょうな? オペラだとこういう構成になるんだなあ、という新鮮さと面白さはあった。

死ぬ間際の兄、往生際が悪すぎだろ、ふしだらな妹を腐すだけ腐して呪うだけ呪って、なんだてめえは、おめえが追い詰めてんじゃねえよ、と思ってたら、群衆から糾弾する一言が飛んで、あ、良かった、と思った。いや、良かったのか?

ヴァルプルギスの夜、女装したメフィストには貫禄があって、苦笑しつつも、悪魔のかくあるべしと、ニヤニヤできたんだけど…イマドキ、悪魔と魔女の宴を異性装で表現するのか? ダサくない? と思ったりもした。

妊娠したバレリーナは良かった! マルガリートの運命を象徴していて良かったし、大きな腹を抱えて踊るバレリーナ、見たことない絵で新鮮だった。

嘲笑する仲間のバレリーナ、女を腐す女が、最強にグロテスクだったのも良い効果だったと思う、いまどきモデルならマタニティ・フォトの企画組んでもらえたりして新しい命を宿した美しい身体として扱ってもらえるけど、バレリーナ、ダンサー、俳優ってやっぱり、妊娠すると満足に動けなくなってしまうし、体型が"崩れた"身体として扱われがちなんだろうな…などと思った、

でもそういう価値観を醸成しているのは権力をもった男たちなのでは?と思ったので、そこが薄められてるのはイマドキどうなのよ…とか。

男たちに強姦される女、男を押し倒す女が狂騒の描写として描かれたのは良いんだけど、描かれるのは異性愛だけなんだな…と空虚な気持ちになったりした。一昔前なら悪魔の所業=同性愛行為とされてきたし、これだけ保守的なキリスト教の物語の中でそのままやるのは反発を呼ぶだろうし、端的に言ってダサい、同性婚の是非を巡る議論のことを考えれば政治的すぎるし避けたんだろうなと、納得はしたけど…ああいう乱痴気騒ぎに混ぜてもらえなくなったらゲイカルチャーの立つ瀬がねえよな、と思ったりした。

ハイカルチャーめ、保守的だな、くそう、とどうしても思った。人種の偏りにもやっぱり、ソワソワしてしまった、どうにかならんのかね…アフリカ系の役どころにソワソワしてしまったし、子役が白人ばかり…だったよね? なり手が限られてるんだとしたら、古典芸能としてのオペラの未来は暗いんじゃねえか…と思っちゃった。どうなんでしょうな。

しかし、幕が降りて、場面転換に2分、とテロップが出るあたり面白かったし、休憩のたびに映画館内の明かりがつくあたり、面白かった、20分の休憩でみんな場外へ出て行くのも楽しかった。映画館側は大変だな…と思ったけど、ワクワクできた。チケット代にわりと怯んだんだけど、良い経験だった。

2020.5.25.
映像でMETの『ファウスト』を見てみたら、弔問客が去っていく葬式、ひとり残されたファウスト博士の姿、こうやって老いることの絶望を見せるか!と感心した。どちらにも良さがあった。
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