ヨーク

ケトとコテのヨークのレビュー・感想・評価

ケトとコテ(1948年製作の映画)
3.9
俺がフィルマークスで感想文を書く作品というのは「初見」かつ「劇場で観た」作品なので本作は1948年の映画であるがその条件を満たすために書きます。初見の映画は全部新作映画だと思ってるからな、俺は。
70年以上前の作品でありさらにジョージア映画、というか当時はソ連の映画なわけなので文化的にもあんまり馴染みもないし果たして楽しめるのだろうかとやや不安な部分が無いこともなかったのだが、それは全くの杞憂でめちゃ面白い映画でしたね。いやこれは凄いと思うわ。時代も文化圏も全然違う人間が観ても素直に面白いって思えたんだから、本作がジョージアでもロシアでも傑作として語り継がれているのも納得ってもんですよ。
お話。時は帝政ロシア下のジョージアのチフリス(今のトビリシ)で愛し合う二人の若い男女のケト(ヒロイン)とコテ(ヒーロー)がいて結婚を誓ってるんだけど、そのケトの方の父親がやり手の商人で金はあるが世間からは下賤な商売人だと思われていることにコンプレックスを持っていた。しかしそんな折に貴族階級だが金に困っている独身のおっさん貴族を見つけてその独り身のおっさん貴族と娘の縁談を取り付けちゃうんですね。貴族と娘が結婚すれば自分も貴族階級になれると思ったわけだ。その政略結婚的な望まぬ婚姻に翻弄されながらも立ち向かうケトとコテの若者二人、という感じの映画ですね。
まぁあれだよ、かなりベタなラブコメだよ。そんで書き忘れてたが本作はミュージカル映画でもあるので作中そこかしこで歌も歌われる。さらに本作はある種の国策映画でもあって多大なる損害を出した二次大戦後すぐの時期でボロボロだったソ連の状況を鑑みてスターリン直々に「国民が喜ぶような明るく楽しい映画にしろ」というお達しがあったらしいんですよ。多分そのおかげで結構な予算もあったんじゃないかな。衣装といい美術といいが今観ても豪華絢爛としか言いようのない華々しさで素晴らしいし、それにプラスして上記したような分かりやすいラブコメなストーリーなのだから、まぁ今観ても面白いよなっていうのは分かっていただけると思う。
ちなみに親の都合で結ばれることができない男女というストーリー自体もそうだが作中でモロに『ロミオとジュリエット』のオマージュシーンもある。オマージュといえばロッシーニの『セビリアの理髪師』なんかもそうかもしれない。そして親の決めた結婚に逆らうためにケトとコテが奮闘するわけだがその二人を助けるハヌマという中年女性の人物がいて、これが『シンデレラ』でいうところのヒロインを助ける魔女とか『セビリアの理髪師』でいうところのフィガロみたいなお助けキャラでありつつ狂言回し的な役割も兼ねているという分かりやすさで彼女の導きによってケトとコテの二人が結ばれるという筋がこれでもかというほどに分かりやすく描かれてるんですね。その娯楽映画としての造りは今の基準で観ても普通に楽しめるものだと思う。
なんつうかシンプルに分かりやすくて楽しい映画ですよ。多分だが30年代のアメリカ映画を参考にして撮ったんじゃないだろうかと思う。『或る夜の出来事』みたいないわゆるスクリューボール・コメディとかを結構意識してんじゃないかな。大分ご都合主義な展開があるのもご愛敬って感じだがその辺は同志スターリンから直々の指示があったようにひたすら楽しいお話にしろってのもあったんだろう。作中で「シベリア送りにしてやるぞ!」とかいうセリフがあるのは中々キレた皮肉かもしれないが全体的には角のない笑えるコメディでした。
時勢的にロシアのキナ臭さが匂ってきてるけどロシア本体はもちろん、旧ソ連の辺縁諸国にもこういう名作が埋もれてるんだろうからそういう作品に触れる機会がたくさんあればいいのになぁ、と思いますね。面白かった。
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