たりほssk

アラン・デュカス 宮廷のレストランのたりほsskのレビュー・感想・評価

4.2
心から感動しました。アラン・デュカスその人自体がextraordinaireだと思いました。
心に残ったことは2つあって、一つ目は、大成功の秘訣を聞かれて、即座に「好奇心」と答えていたこと、そして(自分が確立したものを)独占せずに分かち合うこと、後続のシェフたちを育てて必要なら座を譲る、と話していたことです。普通なら自分の高い技術を出し惜しみしたくなると思うのですが、彼はそうではない。それは常に彼が好奇心を持って新しいものを生み出しているから、すなわち一つのところに安住することがないからではないかと思いました。そしてそれこそが彼の在り方。常に変化しながらアラン・デュカスであり続ける。まさにそれこそが生きている、ということなのでないかと。

二つ目は、食を通じて権力の座にある人とも、貧困な人とも変わらない態度で接していたことです。オランド前大統領に自分の信念をはっきり述べ、かたやマニラの専門学校(ストリートチルドレンの救済施設、毎年10人が奨学金で料理を学ぶ)、リオでの貧困層の人たちのためのレストランの活動(オリンピック村での余剰食材を活用)を行う。ここから彼にとってすべての人々はお客様であるというゆるぎない軸を感じました。そして食を介すればどんな人とでも通じ合えるという可能性。どんな立場の人だって、おいしいものを食べたら幸せになる。そういう幸福感をもっと追求したらいいのにという素朴な希望さえ抱きました。

実際問題アラン・デュカスのような生き方ができる人はそうそういないと思う。自分にとってもものすごく遠い人。だけどこれは現実で、彼の生き方から学ぶことはとても多い。素晴らしかった。
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